外伝~冷酷のイーユン~
残酷な描写が含まれています。
ご注意ください
残忍な音が響き渡る。
「やだぁぁぁ! やめてよぉぉぉ」
「負けたのはお前だよ! 『落第組』」
ざしゅ、許しを乞うていた子供に、ナイフが投げられた。
「おいおい、死んじまったじゃないか。俺が楽しめない」
ニヤニヤと笑うもう一人の子供。この子供は銃をもっていた。
「あぁ? 『的』に何当てようが勝手だろ? 死んじまったのだって俺のせいじゃないし」
ぎゃはははは、響く笑い声は下品ともいえた。
ここはカーン帝国王都。そして帝国にたった一つの「王立孤児院」である。
一度入ってしまった子供は、卒業するか死ぬか、もしくは娼館に入るために出るか、その三つしかない。一番多いのは死んでこの孤児院を出ること、二番目に多いのが娼館入りすることだ。
卒業できる孤児は入ってくる孤児の一割にも満たない。それほど過酷な場所。
「個体チップ」を埋め込むことが出来なかった子供たちは、親の手でここの門をくぐらされる。
教えられるのは一般教養と軍の規則、そして銃や戦闘機はては巨体を操縦することまで、幅広い。それだけなら優秀と言えるだろうが、「殺すことに慣れさせる」こと、「相手を欺きいかに殺すか」「相手をいかに出し抜くか」そんなことまで教え込まれる。だから、皆狂っていくのだ。
五歳になる頃には大抵の子供たちは殺しに慣れる。銃を扱い、相手にナイフを投げる。相手を殴る、それが日常へと化していく。
狂った子供たちは理性を失い、あっという間に殺人鬼へと変貌をとげる。
時折、理性を失わない者もいる。
だが、そんな優しい者たちは生きていくことすら難しい。
ここに、殺すことにすら飽きた子供がいた。名前はイーユン。鬼才とも揶揄される才能は、ナイフを投げれば狙ったところにあたる。たとえ相手が逃げようとも。
予測できてしまうのだ。だから、最近は適当に投げている。そのため、最近成績は下降気味である。
「面倒なんだよなぁ……」
相手なんて簡単に出しぬけてしまう。殺すのだって簡単。そういえば今日は自分が初めて「脱落組」に回る。院長が嫌いでむかついて、試験に落ちた。
自分が持っているナイフはたった一本。これで自分を守り抜くのだ。ただ、相手は銃を持っている。その瞬間、面白いと思った。
――あぁ、あいつらを殺してやりたい。院長ごといっそ殺してしまおうか――
そう思った瞬間、ぞくぞくした。
にやり、イーユンの顔が歪んだ。
「ははっ。楽しいな!」
銃を向けた子供にナイフを投げて絶命した瞬間、イーユンは心のそこから歓喜した。戦場でこれが繰り返されるとなるとぞくぞくする。
死んだ子供から銃を奪い、ナイフを抜き、少しだけ後悔した。もっと苦しませてやればよかったと。
次々に「脱落組」だろうが「試験組」だろうが、手当たり次第に殺していく。銃の弾が切れれば、その辺に転がっているモノから奪えばいい。
「終了だ!!」
誰かが声をかけてきた。もう、終わり? つまらないじゃないか。自分の昂ぶりはまだおさまってすらいない。
「邪魔」
イーユンは止めに入った男に銃をはなった。
「なっ!?」
「まだ俺は終わっちゃいないんだよ。邪魔するな」
怯え、逃げ惑う大人たち。何だ、こいつら。自分に殺しを命じておいて逃げるのか?
つまらない。でも、昂ぶりを抑えるにはこれ位しないと。
「ひぃぃぃぃ!!」
楽しむように、銃を向け、相手を弄る。
「そこまでにしようか、イーユン」
冷たく割って入ってきた少し年上の声。
「邪魔、するなよ」
「するさ。君が処刑されるのは忍びない」
そう言って、躊躇いもなくイーユンに銃を向けてきた。こんな男、初めてだ。
「じゃあ、止めてみろ! 俺はあんたを殺す!!」
「その意気だ」
男は楽しそうに笑う。そしてイーユンがはなった弾をあっさりとかわした。
うそ、だろ?
初めての敗北だった。
男に両手を打ちぬかれた。たった一歩で。
「今日から君は私の部下だ。いつでの寝首をかきにくるといい」
男はそう言ってその場から立ち去った。
悔しい、悔しい……。初めての敗北。絶対にあいつを殺してやる!
闘志を抱き、王城の門をくぐった。
そして男と再会した。男の名はダレル。「半端者」と揶揄される男である。
しかし、いつも抜け目なく隙がない。
部下になって数年過ぎた。それでも未だ超えられない。殺すことは勿論出来ない。
「君に私の寝首はかけないよ」
にっこり笑ってダレルが言う。
その意味を知るにはイーユンは若すぎた。
そしてその意味を知る頃には、イーユンはダレルに心酔していた。そしてダレルの右腕として、長くいることになる。
彼の二つ名は「冷酷のイーユン」
初めは誰構わず欺き殺すことからこの名がついた。
だが、今は違う。
ダレルが誰よりも信頼し、背中を預ける。そして「敵」には何一つ容赦せず殺すからだ。感情すら表に出さずダレルのためだけに血を浴びる。




