外伝~セシル陛下のお見合い事情~
「弟分」であるトーマスが結婚したとなると、うるさくなるのは仕様なのか? とセシルは思った。トーマスのように信頼できる誰かなどいない。第二特別特殊部隊の面々は皆個性的で、全信頼を預けられる人物たちだった。
だからこそ、トーマスを「弟分」として今でも扱い続けているし、第二特別特殊部隊にいた少ない人間も、重要職に置いておきたくもなる。
――難を言えば、もう少し女性がいれば伴侶が選べたかな――と思うくらいである。ベティはトーマスと結婚したし、もう一人の女性、マルドゥラはオスカーと「両翼」と呼ばれるほどに公私で親密である。
ダレルはあまり言ってこないが、デールは「跡継ぎを」とうるさい。デールが結婚さえしていなければ、「お前がしてから言え」ともいえるのだが。
現在、カーン帝国において王位継承者はいない。先王と兄であったセオドアは先の戦の事もあり、民の信任を失った。つまり、セシルがいなくなれば内乱へと発展していくだろう。
「……困ったな」
内乱を作らないためにも跡継ぎは必要だと思う。だが、信頼出来得る伴侶を見つけるのが大変なのだ。
「王位になんて就かなければ楽だったなぁ」
ぼやいても仕方がない。ただ、あの時自分がとった行動は間違いではないと思っている。
カーン帝国には王族と平民以外の階級は存在しない。シャン・グリロ帝国やバークス公国のように貴族階級がいればそこから見繕うことも可能だったかもしれない。だからと言って変に特権階級を作るつもりもない。
「陛下」
ダレルがひっそりと私室へ入ってきた。
「ヴェルツレン侯爵家より贈り物です。間もなく陛下の生誕祭ですが、当人たちが欠席するとのことで」
「やっぱりあちらもそう動けないか」
「そのようです」
トーマスに会って昔のように色々話したかったなと本気で思う。「方舟」を動かして以来、どこの国もピリピリしている。
「跡継ぎねぇ……アッカー家に娘がいればよかったのに」
「我が家に娘がいようとも、アッカー家は王家に嫁がせませんよ」
「そうなの?」
「はい。降嫁も受け入れません。王室と一定の距離を置き、王家をお守りし、道を誤ったときにはどの家よりも先に道を正すよう進言する、そのための家です」
そんな事情があったとは。道理でここ最近軍宰相にすらなっていなかったわけだ。
「暗に愚王が続いたと言われているようなものだね」
「事実です」
そっけなくダレルが言う。今では特殊部隊どころが軍宰相の右腕として動いている。デールは近衛隊の隊長、今や「鉄壁のアッカー兄弟」とまで言われている。
「誰かいい女性いないかなぁ」
「ご自身で探すつもりはないのですか?」
「時間がない」
そっけなくセシルは答えた。事実内乱が起きそうな今、城をそう簡単に抜け出せない。
「……近くに声をかけてみますね。好みの範囲は?」
「特にないかな?」
ありがたい、そう思ったのは一瞬だった。
「では十歳以下、もしくは五十歳以上でもよろしいでしょうか? それから『男の娘』は大丈夫ですか? あとは『身体は女、心は男』、『男だったら誰でもいい』というのは?」
阿呆か!? ダレルは何がしたい!?
「全て却下だ! 私が求めるのはこの国の妃として相応しい教養と思慮深さ、そして民を思いやる心を持った……」
「相応しい『強要』ですか」
「勝手に字面を代えるな!!」
こういうものはやはりデールに頼むべきだったと、心のそこからセシルは思った。
「……まぁ、それは冗談として……釣書を早めに持ってきます。明日くらいには数名お見合いできるかと」
「早くないか?」
「アッカー中佐にせっつかれていたので。まぁ、そろそろ言い出す頃合かと見ておりました」
ふざけていながら、公私を別に考えるこの兄弟が頭に来る。確か二人の兄は開発室で薬等の開発に携わっていたはずだ。
正直、羨ましいとは思う。すぐ上の兄は結局処刑され、一番上の兄は幽閉されている。
「陛下に相応しい伴侶をお見つけすると、お約束致します」
反則だ。落差をつけて臣下の礼を取るなど。
……第二特別特殊部隊の頃から、このあたりは変わらない。
この釣書のおかげで伴侶は見つかったので、一応は感謝している。




