外伝~「僕」の生きる意味~後編
バネットさんが正式にクリスティ様と婚約した。もう、「僕」はバネット様と呼ばなくてはいけないんだなって本当に思った。幸せなご家庭を築かれるだろう。その時「僕」はバネット様とクリスティ様の「影」として邪魔者を排除するんだと決めていた。
間もなく、「僕」に転機が訪れた。とある組織を探って欲しいと。
「私もよく実態をつかめていないんだけどね……トムしか頼めないんだ」
「僕でないといけないんですか?」
「そう。何せ『個体チップ』を外したりしている組織だ」
確かに「僕」にしか出来ない仕事だ。
「あとは、トムのような『個体チップ』を埋め込めなかった人たちを集めている。君の判断でヴェルツレン侯爵家に連れてくるかは決めていい」
大任すぎる。だが、バネット様は悩んでいた。
「私としては、いい感じのしない男だと思った。ただ、現在の状況を憂いている、それだけは確かだ。『個体チップ』自体がおかしいと声高らかに叫んでいるからね」
「分かりました。僕が行きます。最悪、僕を見捨ててください」
それくらいの覚悟はたった数年で出来上がっていた。
「へぇ、君も『個体チップ』埋め込まれていないの?」
野心を秘めた瞳をした男、チュルスがこちらを見つめてきた。
「うん、埋め込まれていない。名前もないよ。ずっと奴隷だったからさ」
このためだけに、酷い傷を幾つもつけた。多分、最近のものだって気付くと思うけど。
ところが、この男は気付くことなく「酷いな」とだけ言って仲間に引き入れた。
「これから我々は『カメレオン』と名乗る! この世を憂い、そして『個体チップ』をなくすのだ!!」
何なの? この阿呆らしい演説。まぁ、乗っておくか。
「いいだろ? ここは! 飯は食えるし、『個体チップ』がなくても差別されない!!」
チュルスが自慢げに言うが、ヴェルツレン家でも同じことがされてたよと思った。でも、それはたまたまバネット様が僕を見つけてくれたら、そうなっただけで、この男のように「僕」がなったかも知れないし、死んでいたかもしれない。そういう意味では天国だろう。
賛同者は徐々に増えていく。国境を越え境界線のないテロ集団と化していた。
チュルスを見て、トーマス様とバネット様に紹介するかを数年「僕」は悩んでいた。
チュルスには別の組織が手を貸している。そして「方舟」に興味を持ち始めた。それが「僕」を躊躇わせる理由だった。
「やったぞ! ヴェルツレン家の女を孤立させた! エルグス男爵の依頼を終わらせた!」
今、なんて言った? 誰を孤立させた!
「これで資金は出来た。もっと人員と武器を増やすぞ!!」
チュルスの歓喜に「僕」は血の気が引いていく。この任務さえなければクリスティ様を助けに行けるのに!!
それから数年、嫌な報告しか入ってこない。クリスティ様の護衛であるバーカー夫妻に子供が産まれた事、そしてクリスティ様の死。
どうして、どうして「僕」はあの方を殺す組織にいるの!? エルグスにいなかったら絶対にクリスティ様は死ななかった!!
「おい、『三号』」
チュルスが「僕」に声をかけてきた。「僕」の名前はいつの間にか「三号」になっていた。
「これからエルグス共和国で一暴れする。褒賞は首相から貰う事になっている」
「行って来れば? 「僕」は留守番してるからさ」
「そうだな……お前はこの通信で見ていろ。二号と一緒に」
にやりとチュルスが笑った。あ、「僕」は疑われているんだとすぐに分かった。
悲惨な結末、チュルスはバーカー夫妻とバネット様を楽しそうに殺した。
「貴族のせいで、俺らはいやな目にあうんだ! 死んで当然だ!!」
なにがだよ。下種が。信頼を得るためだけに、「僕」は感情を殺した。
ねぇ、バネット様。あなたの命令に背くことをお赦しください。
あなたとクリスティ様のお子様は「僕」が責任を持って逃がします。トーマス様に会わせるかどうかは今のところ分かりませんが、「僕」は私情を挟みます。あなたたちを殺したチュルスは、いつか「僕」が殺します。
でも、そのあと「僕」の生きる目的がなくなっちゃうなぁ、どうしたらいいんだろう?
会わせないことが、正しい判断だったと、それからかなり経って「僕」は気付くことになる。




