五十三
数ヵ月後、トーマスはヴェルツレン侯爵となる。そして大戦を抑えるべく計画を練り始めた。
幸いにも開発室のほとんどがヴェルツレン領へ逃げていた。もともと無理難題ばかり言う軍の一部に嫌気がさしてた。だからこそ、巨体のメンテナンスはしっかりしてもらえる。そして皆、世界大戦になることを望んでいないのだ。
「トーマス、バークスは抑えられそうかい?」
イライザが唐突に聞いてきた。
「無理です。祖父が城へ行ってますが、おそらく暗殺されるでしょう」
先日公国首都へ向かう祖父を見送った時に、そう言われた。
「祖父が暗殺されたら動きます。指揮は……殿下かダレル大佐にお願いしたいんです」
「どうしてだい?」
「『方舟』を動かします」
「あんなもん動かしたって戦争なんて止められやしない!!」
「だと思います。ですがここにいるのはバークス公国に籍を置く僕とカーン帝国に籍を置く皆さんです。あとは、祖父が数人各国から見繕ってくれていますので何とかなります」
「いつの間に……」
セシル殿下の驚きに、トーマスはくすりと笑った。
「もともとヴェルツレン家は大戦を防ぐためだけに存在する家です。それはもう、僕も覚えられないくらいに散らばっているそうです」
いつもどこからともなく聞こえる「声」が教えてくれる。
「この城に入れたこと自体が既にヴェルツレン家と同格に扱われていると言うことです」
サシャがどこからともなく現れ、告げた。
――旦那様、どうかこの私をあなたの僕に――
侯爵に就くまえ、サシャが頭を下げて告げた。
――キャロウ家の人間としてではなく、一個人としてあなたに仕えたい――
それをお許しくださいますか? そう告げた己より十も年上の男。
――よろしく――
トーマスはそれしか言えなかった。
「旦那様、間もなくヴェルツレン家の総てが集まります」
「……そっか。ということは時間稼ぎはもう出来ないんだね」
「はい。先代様はクリスティ様のところへ逝かれました」
それは、トーマスも気がついていた。動くしかない。
「大戦を防ぎます。指揮をお願いします」
「分かった。私の可愛い弟分よ。君は何をするんだい?」
「僕とサシャで操縦します」
ふわりと微笑むセシル殿下が、周囲を見渡した。
「さて、最後の悪あがきをしようか」
「了解!」
数多の国に散らばった同胞へ声をかける。己に従えと。大戦を起こさせまいと。
「何機くらいで行く?」
「場所にもよりますが、オスカー、アーロン、ビル、そしてマルドゥラは特化型へ。あとは居残りでよろしいかと」
「そうか……ではそうしよう。レーダーはトーマスでいいね?」
「それ位ならできます」
すぐにマルドゥラたちは外へ出て行った。
トーマスはとある椅子に座る。そしてその隣にはサシャ。無数の手がトーマスとサシャに向かって伸びていく。
「トーマスッ!」
「気にする必要はないよ。メイナード。これはこうやって動かすんだ」
自分の力量で動かせるのは上部のみ。そこだけでやっていくしかない。
機械音が炸裂する中、「それ」は浮かび上がった。




