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四十七
ダレル大佐とイーユンを前にしてセシル殿下は困った顔をしていた。
「トーマス准尉、どう扱おうか」
他国の侯爵子息となれば、また対応が違ってくるということだろう。しかも現在シャン・グリロ帝国を除けば一番ピリピリとした関係のバークス公国である。
「前侯爵閣下のおっしゃるように、現状維持が望ましいと思われます」
「そうだけど、怪我されるとね……。父上や兄上にばれたらそれこそ『方舟』のために利用されかねない」
「ですから逆に今まで通りにします。帝王学だけ殿下から教えていただければ、トーマス准尉も人の上に立つ人間として自覚するでしょう」
セシル殿下とダレル大佐の会話を黙って聞いていた。
「私が帝王学を?」
「はい。何せトーマス准尉は殿下の『弟分』。教えても大丈夫だと思われます」
「……そうか。ダレル大佐、私も覚悟を決めた」
二人は殿下に一礼をしてその場を去った。
宿舎では何一つ変わることはなかった。今回の「護衛の礼」としてヴェルツレン前侯爵から色々届く以外は。
表向き平和な時間が過ぎていく。
破壊への始まりとも知らずに。




