十六
半年後。
初めての昇任試験が行われた。
試験といっても、実地でどれくらい戦闘できるかということに重点を置かれる。
「トーマス、メイナード両曹長に与えられた任務は、珍しく二人でやるやつだ。現在、我がカーン帝国と神聖シャン・グリロ帝国との国境近くで小競り合いが起きている。それを二人で解決してきて欲しい。場所は東北部のセンデス地方、エヴァンだ。第二王子殿下から現地で詳しい話を聞いて欲しい」
イーユン中佐の説明を聞いて、あれ? とトーマスは思った。確かメイナードの出身地域だと記憶している。ちらりと横を伺うと、メイナードは俄然やる気になっていた。
「任務は極秘、誰にも漏らすなよ」
ダレル大佐が苦笑しながら忠告していた。
「そして、マルドゥラ曹長は単身で飛行特化型巨体『ガルタ』に乗り、ゲリラ部隊『カメレオン』の駆逐」
「ガルタ」で単身飛び込む? 普段では考えられない任務にただひたすら驚愕した。
「『カメレオン』が潜んでいる場所が一箇所だけだが判明した。やつらは擬似が得意で、レーダーに反応しない。つまり、マルドゥラ曹長、君くらいしか適任者がいない。だから単機で迅速に駆逐して欲しい」
「分かりました」
特化型巨体は汎用型よりも扱いが難しく、本来であれば半年くらいで搭乗できるものではない。最低でも汎用型巨体に一年以上乗り、初めて訓練が開始される。もともと、トーマスたちはテストと称してかなり乗っているが、通常では有り得ない。
「これが成功すれば各自一階級昇格する。その前に全員適正テストを行う」
テスト、おそらく特化型巨体をどれくらい乗りこなせるかを見るやつだろう。
「全員配置につけ! すぐに行う!」
ダレル大佐の言葉のもと、三人はすぐに取り掛かった。
特化型巨体、それは三つの汎用性巨体と似てはいるが、かなり違う。今回マルドゥラが乗る「ガルタ」は、飛行型汎用性巨体AR-Ⅴに比べ、飛行速度が倍くらい違う。そのため、飛行したまま射撃をすることが出来ないという、デメリットまである。速度を上げるために色々と細工されており、その形は猛禽類を思わせる形である。そして射撃するためには一度停止し、飛行型から人型に変形して打たなくてはいけない。人型になってしまえば、兵士が搭乗する場所、コクピッドは他の巨体ではありえないほどに丸腰になるのだ。そのため、乗りこなせたとしても死亡率も高いと言われている。
『テスト完了、それぞれのランクが決まりました』
その言葉にコクピッド内に安堵のため息が漏れ、三人は外へ出た。
「結果です」
ベティ少尉が促し、ダレル大佐が紙を手にしていた。
「トーマス、飛行型D潜水B地下潜行C。メイナード、飛行C潜水D地下潜行B。マルドゥラ、飛行A潜水B……地下潜行E。……なんだこれは」
Eランクなんてそうない、そう驚いていたのはビル中尉だった。
「レーダーと本当に相性悪いのね、あなたは」
呆れたように呟くのはベティ少尉だった。
「これを見る限り適材適所の配置ですな」
「多分そうだろうな。他隊員は別任務にあたる」
その言葉に全員が敬礼した。
メイナードの故郷であるセンデス地方へ足を踏み入れた。
「ひゃー。こんなに寒いのかぁ」
はしゃぐメイナードが不思議に思えた。自分の故郷なのに何も知らないのか、と。よくよく考えれば三歳の頃に軍立孤児院に来てるわけで、記憶などほとんどないに等しいだろう。
「ようこそ、特殊部隊のお二人さん」
にこやかに微笑む男、この人こそここの軍責任者である第二王子殿下だ。
「わざわざのお出迎え、ありがとうございます」
敬礼しようとする二人を殿下は牽制し、足を進めた。
「君たちは卒業したばかりだそうだけど、大丈夫なの?」
「何が……ですか?」
「特化型巨体の操縦だよ」
「任務内容は殿下に伺えと、言われました」
「誰に?」
「我々の上官であるダレル大佐とイーユン中佐です」
何だか嫌な予感がする、そうトーマスは思った。
「とりあえず国境付近で戦になりそうなんだ。それを抑えるために特化型巨体を使用するということで軍宰相、特殊部隊の准将、それから国王陛下に了承をもらっている」
絶対、准将で話が止まっている。かけてもいい。
「自分たちは小競り合いと聞いてきました」
メイナードが珍しく発言した。
「小競り合いなんてものじゃない。かなり酷い。海岸からの潜水型特化型巨体『リヴァイア』と地下からの地下潜行特化型巨体を使用して一気に鎮圧する」
そこまで言うと会議室に入っていった。
潜水特化型|巨体「リヴァイア」。深海でも二週間は潜行できるという巨体で水中では龍のごとく動く為、この名前がついた。弱点としては魚雷を避ける能力が乏しく、巨体の操縦士自らが撃ち落す必要があり、しかも撃ち落す際の水圧等の計算も操縦士が行わざるを得ない。そのかわり、「尻尾」と呼ばれる部分で潜水艦を真っ二つに割ることも可能なほどの攻撃力を持っている。
地下潜行特化型巨体「ノーム」。土竜をモチーフにした巨体で、土や砂の中を潜り、戦車へ直に攻撃することが可能である。土や岩を砕く為のドリルが巨体の両手部分についており、かなりの強度を持っている。そのかわり、地雷には弱く、地雷を避けるための弾薬も無い為かなり無防備とも言える。戦車の大砲は数発くらいなら平気とされている。
特化型巨体を二機も、しかも別機体を同時に動かすという作戦はほとんどない。それが行われると言う事実に二人は改めて驚愕した。だが、いくら極秘事項とはいえ、こちらに話してこないほうがおかしいと思われた。
それでもいいと、トーマスは思った。任務さえこなせればいい。目立たず、周囲の住民を巻き込ませず、これが一番難しいとは思うが、やっていけばいいのだ。
「作戦内容は分かりました。我々は三日間ほど地中、もしくは水中に潜み、相手の出方を待つ。殿下の命令があれば敵を撃つということですね」
「早い話がそうだ」
不機嫌そうに殿下が言う。どうしてこの男が親衛隊隊長になれないか分かった気がする。
「では、指示のチャンネルを。殿下以外が命令できないように」
「ふざけるでない!」
ふざけているのはそちらのほう、その言葉をやっと飲み込んだ。
「分かりました」
とりあえず生き残れればいいか、それで済むのはトーマスだけでメイナードはそういかないだろう。
「メイナード、乗ったらすぐにブラックボックスをオープンにしろ。イライザさんに賭けよう」
「トーマス?」
「嫌な予感がする。何かあったらすぐに僕に連絡くれ」
こんな重要な任務に入隊したばかりの未熟者を使うことが有り得ない。
「分かった」




