十七
特化型巨体に乗るなり、ブラックボックスをオープンにする。指示は何一つ入ってこない。
『トーマス、おかしい』
『おかしいな。レーダーが上手く動かない』
『こっともだすらおかしい。どうしたらいい?』
『開放するしかないかな? マルドゥラがこっちでなくてよかった』
『俺も同感。「第六感」とか言って滅茶苦茶動きそう……』
全くもってその通りだ。トーマスは海中に沈んでいく。既にカメラとレーダーの調子がおかしい。自分好みに調整していく。
自分たちを邪魔だと思うやつが仕掛けたのか、それとも別の思惑があるのか。考えは分からないが、とりあえず三日間海中に潜む。指示は何一つ入ってこない。ただひたすらレーダーとカメラを確認して動いていく。もうすぐ敵潜水艦の下に入る。海中奥深くを進み相手のレーダーに悟られないようにするしかない。アーロン大尉のように沈めはしないが、ギリギリの範囲までなら何とかなる。
『トーマス、こっちも大丈夫だ……ってかシャン・グリロ側にこちらの動きがもれてるぞ』
『僕もそう思う。よっぽど始末したいんだろうね……あの第二王子殿下は』
『俺たち何かしたか?』
『何もしてないと思うよ。ま、しばらく逃げよう』
緊張感のかけらもないと言われそうだが、そうでもしないと気は紛れない。
『お前達は何をしている? 我が帝国に忠誠を誓ったのではないのか!?』
見事な時に入ってくる。もう、この人始末したいんだな。
『殿下、失礼』
『無礼な!!』
割って入ってきたのはダレル大佐の声だった。
『トーマス、メイナード、お前達のタイミングで動け!』
『はい!』
『了解』
ダレル大佐の指示に二人はほぼ同時に返事をした。
司令室には沈黙が漂っていた。
「殿下、何故このような愚かなことをなさったかお聞かせください」
ダレル大佐が静かに言った。
「そなたたちに何が分かる! 大切な妹の遺体が……」
「オーフェリア様がどうなさったと? ここは重要な基地です。そこを壊されると」
「兄上!」
セシル親衛隊長に連れられて、軍宰相、そして陛下も集まった。
「ここは我が叔父上エヴァン様が命をかけて守り抜いた土地。それを何と心得ておる!」
「父上……しかし、いつになったらオーフェリアは……」
『大佐! 数が多すぎです! 指示お願いします!!』
トーマスから悲鳴のような声があがった。
「殿下、二人の位置をシャン・グリロ帝国に漏らすよう操作しましたね?」
「な……何のことだ!!」
殿下に一瞥することもなく、大佐は動き出す。
「イーユン、指揮権をお前に委ねる。ベティは漏洩している情報を止めろ」
「しかし、大佐!!」
「あのコンビーネーションに入るには年の功が必要だ」
それだけ言ってさっさといなくなった。
「ザガリー院長! そちらは?……そうですか…………こちらもすぐに終わらせて帰還します!」
「ベティ?」
「あちらも軍の一部に動きが! 『カメレオン』に呼応する『個体チップ反対派』とシャン・グリロ帝国の攻撃が!!」
「ベティ、急げ!」
「はいッ!」
時間のみが勝負になる。ベティ少尉の手ですぐさま漏洩しているであろう情報を遮断するための操作が行われた。その間にダレル大佐は何故か標準型巨体に乗っていた。
『分かるか? こちらは陽動。すぐに敵を潰せ』
そのこと言葉に呼応するかのように海が動いた。いや、海中に沈んでいた「リヴァイア」が動き出したのだ。
そして、大地も動く。下から「ノーム」が飛び出したのだ。
「リヴァイア」が地上で動ける時間は少ない。その間にも戦艦を叩ききっていく。そして「ノーム」もまた、戦車や敵方巨体を両手のドリルで破壊していく。
ダレル大佐の乗る巨体は相手をあざ笑うかのように動き、破壊していく。何と壮絶な戦いか。
「確かに小生では無理ですな」
「はい。さすがダレル大佐です」
それ以上に、あの二人は違う場所にいてほとんど通信もせず戦っているようには見えない。見事な異種型のコンビネーションである。普通では有り得ない。やはり「規格外」だと痛感していく。
『終了。ご苦労だった。そして見事な作戦だったよ』
ダレル大佐の労いの言葉が入った。
『私はこのまま王都へ帰還する。警備を頼む』
「はい」
見えることがないであろうが、敬礼してダレル大佐の登場する機体を見送った。
「聞いておったか、我が子よ」
「父上……」
「お前のしたこと、我が帝国への反逆ぞ」
「しかしっ!」
言い訳無用、そういわんばかりの陛下の圧力があった。
「イーユン中佐、君がここの指揮を取りなさい。私たちは殿下を連れて王都へ戻る」
「承知いたしました。閣下」
すぐに去る陛下たちを見送りながら、ベティ少尉に出撃の合図を出した。
『イーユン中佐、こちらは大丈夫です』
戦闘機に乗り込んだベティ少尉からの連絡が入った。
「では、すぐに」
それだけでベティ少尉は動く。そこまでダレル大佐とイーユンが仕込んだのだ。それくらい出来なければダレル大佐の部隊ではやっていけない。
『あなたたちッ! もう少しだから心おきなく散財しなさい!!』
何か違うと思いながらも、イーユンは部下たちの戦いに目を見張っていた。




