十五
訓練と、メンテナンスと、ある意味あわただしく過ぎていく。
そうしているうちに、マルドゥラの顔色が悪くなっている。
「大丈夫? マルドゥラ」
「大丈夫よ。時期なだけ」
トーマスの問いに、マルドゥラはいつものように淡々と答え訓練へ戻っていく。
「時期?」
「イ、イーユン中佐!?」
その後ろにはベティ少尉もいる。
「さて、答えてもらいましょうか? 『時期』って何かしら?」
「マルドゥ……」
「マルドゥラ曹長がそうやすやすと答えてくれるかしら? メイナード曹長はマルドゥラ曹長にあなたと同じ質問をして、同じ答えをもらってたわ。で、問いただしたらあなたに聞けって。さ、教えなさい」
先に逃げた方が勝ちというわけか。まぁ、同じ問いをマルドゥラにしたところで「少尉と中佐には関係ありません」で終わらせそうだ。
「……どうもこの時期になると、夢見が悪くなるとかで極端な寝不足になります。分からない語源の寝言ですので、何を言ってるかまでは……」
「夢見が悪いだけで、あんな顔色になるの? メカドックで働かせ過ぎではないの?」
ベンが聞いたら怒りそうな一言である。
「もともとマルドゥラちゃんは一度栄養失調まで行きましたから、身体弱いっすよ~」
レイドが唐突に口を挟んだ。
「いや~会ったときはいつまで生きられるかって思いましたもん。で、本日はそのマルドゥラちゃ……いえいえ、マルドゥラ曹長だけテストパイロットに入ってもらうそうです」
今日はかなり時間がかかるため、一日連れて行くとだけ言って、さっさといなくなった。
「そんな時期にテストパイロットなんて勤まるかしら?」
ベティ少尉の言葉はある意味その場にいる全員の謎だった。
「ほい、マルドゥラ。お仕舞い」
イライザが二刻もしないうちに終了を告げた。本日一日がかりと聞いていたが、おそらく体調不良からこれ以上やっても意味がないと思われたに違いない。
「マルドゥラ、違うかんね。最初っから、今日のテストパイロットはただの連れてくる理由。そろそろ時期だかんね」
イライザとベンには既にばれている。
「言っちゃ悪いけど、あたしたちはあんたが小さい頃から知ってるんだ。そこいらのやつらと一緒にしちゃ困るよ」
「イライザさん、ありがとう」
「マルドゥラ、あたしたちにまで壁作んの、やめてくれないかい? 親父が死んでから、あんたは壁を作りやすくなっちまったよ」
バッカスが死んだのは紛れもなく、マルドゥラのせいだ。
「あたしはね、親父があんたを連れてきたときのことしっかり覚えてるよ。親父があんたの手を引きながらさ、『イライザ、さぼってんじゃねぇ!』って……どこで見てたと思ったよ。したら、あんたが親父と話しているとき遠くから見つけたって言うんだ、驚くに決まってんだろ」
そこで言葉を切った。
「親父が死んだのはあんたのせいじゃないさ。少なくともあたしもベンも開発の連中も、みぃんな知ってる。だから、あんたが背負う罪じゃない」
でも、あの時もっとマルドゥラが銃の扱いに長けていたら、バッカスは死ななかった。
「親父の目は間違いじゃなかった。実際あんたは、あのあと何度も落ちこぼれ組に行ったり、補習組にまわったけど、卒業規定より早く卒業している。だから、あたしらにとってあんたは誇りなんだよ」
「飛行機に乗れない私を支えてくれたのが、バッカスさんでした」
「しゃあないだろ? あんたは飛行機に対して絶対的なトラウマがあった。親父は理由も知ってたみたいだけどね。それを克服したら、あっという間に乗れたじゃないか。今じゃおそらく、Aランクは軽く越せるよ。……レーダーの見方覚えたらだけどね」
そんな話をしていたら、眠くなった。硬いソファで眠りについた。
眠ったマルドゥラを見て、イライザは苦笑していた。
「……ったく、手間のかかる妹だ」
出した飲み物に「試作品」の睡眠薬を入れておいた。これで少しは眠れるし、薬の開発にもなって一石二鳥である。
「さてと、報告書書くとするかね」
今日のために溜めておいた汎用型飛行タイプ巨体の報告書にイライザは向かっていた。




