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ダンジョン協奏曲  作者: 入栖
さぁ、ダンジョンを作って冒険者を呼び込むのじゃ! ちょっと待ってセラフィ、それはまだ先だ。
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目覚め

 

 僕はセラフィには感謝もしているが、言いたい事もある。

 

 契約したセラフィは、これ以上ないと言えるほどの契約者であろうことは確かだ。

 理由は幾つかある。

 まず必要なことはしっかりとやるその精神。ダンジョン講座を始めたばかりだと言うのに、彼女はいつの間にか駆けだしのダンジョンマスターよりも知識を得ていた。僕はそこまで教えてもいないと言うのに。


 なぜ知っていると思ったら、どうやらA&A商会のダンジョン学の本をエディスに貸りたらしい。講義中は文句ばかり言うが、根は真面目だ。


 またセラフィの頭の回転が速いことも、ダンジョンの知識を吸収させるのに役立っている。

 たとえば僕が1を説明すれば、彼女は9を理解し1勘違いする。稀に勘違いするのがミソだ。これがあるから僕はまだダンジョン全権を彼女に与えることが出来ない。


 さて、1から9知れる彼女があのダンジョン学の本を読み終わったらどうなるか。僕の講義は特殊なものを除いて、いらなくなるだろう。必要な事を僕が言わなくてもやってくれるセラフィであるが、これ以上ない契約者である理由はそれだけではない。


 彼女が最上の契約者たるゆえんはその強さにある。僕もエディスも敵わないその強さ。大悪魔として名の知られるフォルネウス先生クラスの強さ。初めはダンジョンのボスとして利用することも考えたが、それは止めた。ボスは強すぎても駄目なのだ。


 さてそのような強大な能力を持った彼女。そう言った者を契約維持するためにはコストがものすごくかかるのが普通だ。1か月で金貨数千の利益を出すようなやつを金貨1枚で雇えると思うか? 否である。


 だけど彼女は違う。僕が彼女にしなければならないことは一緒に居ること、そしてたまに血をあげることだけだ。たったこれだけで良いのだ。


 そう、彼女はそもそも食事や睡眠すら要らない。

 吸血狐という種族は血液ですべて賄えるらしい。なら逆に血液がないとどうなるか? 聞いてみたところ一尾、二尾の吸血狐であれば力が衰えるだけではなく暴走もしてしまうらしいが、四尾を超えたあたりからそれも無くなるらしい。とはいえ代わりのエネルギー源として、食物やマナが必要となるそうだが。


 つまり、五尾の吸血狐であるセラフィは、血液か食事のどちらかが必要となるのだ。ただ血液があっても、食事を取っても良い。彼女だって味覚はあるそうだし、食べることで幸福やら快感といったプラスの感情を得ることが出来るのだろう。つまりストレス発散やら幸せを感じることが出来るのだ。


 眠りもそうだ。基本的に睡眠はとらなくても良いそうなのだが、気分的にすっきりするらしいし、無限に等しい寿命を与えられた生物においては、あえて長期間睡眠を取って時代が変るのを持つ者もいる。


 そう、だから彼女は睡眠をとる。うん。別に構わないさ。寝ることに特に問題はない。ああ、構わないさ。だけどさ。

 

 僕はため息をつきながら彼女のベッドを見つめる。

 

 かけ布団は蹴飛ばされたのか、本来の居場所であるベッドから追い出されている。また彼女は1メートル以上はある枕を両手両足でホールドしながら、定期的にゴロゴロとベッドの上を転がる。


 彼女の可愛らしいフリルの付いた黄色と白のパジャマは大胆にめくりあげられ、白く美しい肌を露出させている。そして本来ならば美しいとしか思えない筈の彼女の顔は歪んでいて、まるでスケベオヤジが獲物を見つけたかのようにしまりがない。そんな彼女の半開きの口からは、『うへへ』やら『良いではないか良いではないか』やら『お主も悪よのう』だなんて、状況が理解できない寝言が漏れていた。


 しかし今日はいつもよりマシだ。運が悪い時は涎でピカソ顔負けの芸術が作られているのだが、今日はそれがないからだ。

「もう少し寝相を何とかしてくれないかな……」


 と、呟いた所で治ることはない。彼女は自分の寝相の悪さは知っているようだが、どうしても直せないらしい。まぁ眠っているのだから無意識なんだろうし、仕方がないのかもしれない。


 僕はとりあえず肩を揺らしながら、先ほどから目の毒になっている彼女のパジャマを直す。エディスには無いその豊満な果実に目を奪われつつもなんとか服を整えた時に、彼女はゆっくりと目を開いた。


「ミヤ……ジ?」

「おはよう、セラフィ」

「んっ……」


 不意に彼女の腕が伸びて 僕の服をぎゅっとつかむ。彼女は僕の服を引くことで体を起こすと、手を離し大きく伸びをした。

「おはよう……」


 何とか挨拶はされたものの、半眼で体に覇気はない。まだ夢の世界に足をつっこんだままのようだ。

「今日はセラフィの日なんだけど、どうする?」


 寝ぼけまなこのままぼうっとしていた彼女を見ていると、不意に目の前が柔らかいなにかに覆われた。


 彼女は僕の背中に手を回し引き寄せたらしい。僕が彼女の胸から顔をずらすと、そこには目を閉じた彼女の顔があった。彼女はゆっくりと僕の顔に近づく。彼女の柔らかい唇が小さく開きそのまま…………顔の横を通り過ぎ、首筋に噛みついた。


「今飲むんだね……」

 セラフィの温かい息が肩にかかる。突き立てられたその鋭利な牙は、少しずつ僕の血を吸い取っていく。僕の耳にはコクリ、コクリと隣から音が入り込み、触れ合っている彼女の肌からは脈打つ鼓動を感じる。


 ああ、気持ちいい。ふっと僕の意識が一瞬途切れそうになる。それは急激に減った血液のせいなのか、はたまた余りの快感に脳が意識を切断しようとしたのか。


 そういえば吸血族について詳しく知らない人間は、彼、彼女達のその行為によって、吸われる側に苦痛を与えると思っている人が居るらしい。しかしソレはある意味ではあたっていて、ある意味では間違いだ。


 基本的に彼女達は痛くしようとすれば、痛くもできる。だけど優しく丁寧に吸血を行えばソレは今までに感じたことのない極上の快楽となる。それはもはや麻薬みたいなものだ。僕の血を全部吸い取っても構わない、そう思えるほどに。


 彼女は僕の血をある程度吸うと、ゆっくりと牙を抜く。


 体に空いた小さな穴が開いていたが、それはまるで逆再生したかのように塞がっていき、10秒とせずに穴はふさがってしまった。

「おはよう」


 僕はそう言って血で赤くなっていた彼女の頬を拭う。

「……うむ、おはよう。今日はこなたにとって最高の朝であるな」

 にっこり笑う彼女は、完全に目が覚めたようだった。

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