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ダンジョン協奏曲  作者: 入栖
さぁ、ダンジョンを作って冒険者を呼び込むのじゃ! ちょっと待ってセラフィ、それはまだ先だ。
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DPを得る方法

「どんなダンジョンを作るかの前に、まずセラフィの勘違いを正そうか」

「昨日言っておった冒険者が居なくともダンジョンを維持できると言う奴じゃな?」

「そうそう、ちなみにエヴァエルさんとユスティーナさんは何故だか分かる?」

 僕はセラフィの隣に居たエヴァエルとユスティーナに視線を向ける。昨日よりもセラフィと距離が開いているような気がするが、気のせいだろうか。


「申し訳ございません、分かりかねます」

「あたしも分かりません」


 そう言う二人の更に隣にた灰色の髪の女性が勢いよく手を上げる。僕は見慣れた彼女に小さくほほ笑むと、彼女に声をかけた。

「そうか。じゃぁセツカ、教えてくれるか?」


 前回は彼女は掃除が残っていたので参加出来なかったが、今日はエディスが代わりにやってくれると言うことで参加している。だが、彼女はもうすでにこの三人よりも数段高い知識を教えているし、何よりダンジョンメイドとしてはもう一人前のスキルもある筈だ。なので聞かなくても大丈夫なんだけど、なぜか『ぜひ私にも!』と言われたので参加していた。


「はい、ダンジョンを維持、構築するために消費されるDPダンジョンポイントは実を言いますとA&A商会から買うことができるのですわ。ミヤジ様はそれでDPを購入し、施設を作っておられるのですよね?」


 そう、DPは売買出来るのだ。アマテラス様達神々の頂点に君臨する最高神様が作ったシステムだ。ダンジョンコアを作ったのも最高神様だったかな?


 ちなみに最高神様は御隠居されているが、たまにアマテラス様は会うらしい。だけど会った次の日は必ず機嫌が悪くなり、急に抱きついたりしてくる。なので最高神様と合った次の日は戦々恐々で過ごさなければいけなかった。だけど僕のダンジョンを手に入れた事だし、急に呼び出されたりする事は無いだろう。


「さすがだよ、セツカ」


 僕がそう言うとセツカは頬を緩め、嬉しそうににっこりと笑った。

「わたくしも以前ミヤジ様に色々教えていただきましたから……お陰さまでメイド上等兵まで昇級出来ました」


 学園出たての新人だったセツカを教育したのは僕だ。セツカは父親、母親ともにA&A商会で働いていたエリート社員の娘で、身につけることが一番難しい優雅な動作や挨拶は既に出来ていた。また彼女は頭も良く教えるのがとても楽だった事もあって、すぐに2階級上がることができた。


「いや、僕は殆ど何もしていないよ。もともとセツカには素質があった。昇級出来たのは君自身の能力と努力だよ」

「そう言っていただけると嬉しいのですが、やはりわたくしの能力なぞ微々たるものです。ですので今後もご指導いただければ幸いですわ」


「うん、じゃぁ何かあったら指摘するからね。ああ、あと何か気になったことがあったら質問してくれていいからね、これはセラフィもメイドも全員だから」

「あい、分かったぞ。それで話を戻すがDPは買えるんじゃな?」


 少し脱線してしまっただろうか。


「そう、買うことも売ることも出来る。だけどそれは一定の金額じゃないんだ。外国為替取引……つっても分からないよね……。えと、DPの需要が増加している時期にお金で買おうとすると、沢山のお金を請求されるんだ」


 セラフィとエヴァエルは頷いているが、ユスティーナはよく分かっていないようで少し首を捻っていた。後でゆっくり教えてあげようか。

「ふむ、要するにその時の通貨やDPの価値によって、金額が変わると言う事じゃな。ではDPの供給が増加しているときにお金でDPを買おうとすると、少しのお金で済む」


「そうそう。セラフィの言うとおりだよ。もちろんやり方次第ではその差額分で儲けを出すことが出来るから、それだけでダンジョン運営出来るところもあるかもしれないね」


 僕が見たことはないけれどね。

「ふむ。DPを買うことが出来る、か。……ふむ。ならば一つ質問があるのじゃが?」


「なんだいセラフィ?」

「ダンジョン内で何かを作り出すことは可能じゃろうか? たとえば鉄鉱石の取れる部屋をダンジョンコアに作らせ採取したり、果物、野菜をこのあたりで育てたりすることじゃ」


 僕は断言しよう、セラフィは頭が良い。ほんのさわりの部分しか話していないのに、彼女はもう答えに辿り着いた。ポカンとしてセラフィを見つめるセツカも、頭の良さに驚いているのではないか?


「そう、僕が言いたかったのはソレだよ。ダンジョンコアは鉱石洞窟を作り出せるんだ。それに一部作物はダンジョンで育てられる。もちろん家畜も育てることができるよ」


 此処まで来てようやくエヴァエルは気が付いたようだ。ユスティーナは……後で個人授業だな。


「なるほどのう。ダンジョン内で何かを作り、それを売ってDPに変える。日々維持費として消費されるDPはそれで賄う。ほう、確かに冒険者なしでもなんとかなりそうじゃのう! しかし本当にそんなことをしているやつはおるのか? ダンジョンらしく人もおびき寄せた方が良いと思うが?」


「僕はそのダンジョンに当たったことが有るよ。でもちょっと変な人でね。出来るだけ人と接したくないなんていうから、冒険者ゼロのダンジョンを作ったんだ。まぁダンジョンの仕組みは僕が考えたんだけどね」


「し、仕組みを考えた?」

 エヴァエルは驚いたような声を上げる。


「うん、原案はダンジョンマスターさんのだったんだけど、あまりにも穴が多かったんだ。だから僕がダンジョンを維持できるように色々考えた」


 コスト削減を考えたり、簡単に作ることのできる植物を探したり。ちょっと悪ノリしていたせいか、ダンジョンでは無い何かが出来た。大切なことなのでもう一度言うが、アレはダンジョンではない何かだ。


「結果、一応冒険者なしで成り立つダンジョンらしきものが出来たよ」

 もしダンジョンの定義が『モンスターが出現』、『金銀財宝がある』、『奥にはボスモンスター』と言うのならばあそこはダンジョンと呼べない。どれもないからね!


「ふむ冒険者ゼロのダンジョンのう。風変わりなことを考えるやつも居たのじゃな」

「確かに彼は個性的だったね。まぁ彼のおかげでダンジョンのあり方について考えさせられたよ。ちなみに僕がそこでやっていたことの一部はこのダンジョンでも取り入れる予定だし、ソレの発展系の事も試してみるからね」


 僕がそう言うとセツカがおずおずと手を上げた。僕がどうしたのかきく。

「わたくしは以前ミヤジ様には冒険者なしのダンジョンについて、お話を聞かせていただいたことがございます。ですがソレの発展系と言うものが、恥ずかしながら私の稚拙な脳では想像もできません。ご教授いただけませんか?」


 そういえば確かにセツカに話したことがあったな。


「セツカは知っていると思うけれど、鉱石ダンジョンをダンジョンコアに作らせるのはいいが、そこで取れる鉱石は有限なんだ。補充するにはコアで再度ダンジョンを作り直さなければならないのだけれど、実は鉱石ダンジョンを作ると大量のDPが消費されるんだ。鉱石を取りつくして売ったりしても、そのDPを稼げないくらいにね」


 そもそも鉱石ダンジョンは鉱石で冒険者を呼ぶために作るものだ。ダンジョンマスターが鉱石を取る事はしない。まぁ僕みたいに『自分で採掘すれば儲けられるんじゃないか?』なんて考える人が出ると思って、最高神様もそうバランス調整したんじゃないかな? 分からないけれど。


「さて、ならばどうすればいいと思う?」

 と、ここでエヴァエルが何かを思いついたようだったので僕はエヴァエルに聞いてみた。


「鉱石ではなく、加工して剣にすればどうでしょうか?」

 エヴァエルもなかなかいいところをついてくる。


「そう、正解。加工することで価値を上げるんだ。だけどそれをするにも少し問題があってね。まぁ僕が以前担当した冒険者ゼロダンジョンでそれをしなかった理由の一つでもあるんだ」


「何なのじゃそれは?」

「計算すれば分かるのだけど初期コストが莫大である事と、維持費が思った以上にかかる事さ。それにただ剣にするだけじゃ鉱石ダンジョンを作りなおすDPは得られない。まあこれの解決方法はいつか話すよ。時間も時間だし今日は此処までにしようか」


 そう言うとやっと終わったかとばかりに、ユスティーナはだらけた姿勢を取る。僕は苦笑いをしながら手もとの資料を片づけているとユスティーナは立ち上がり、僕のもとに来た。


「ご主人様、もし迷惑でないなら私に稽古を付けてもらえないだろうか?」

「ああ、そういえばユスティーナは軍にいたんだよね。もちろんいいよ。実は今僕たちの実技訓練場をコアに作らせているんだ。ソレが出来たらね」


 彼女の境遇は知っている。なぜ軍隊から僕の所に回されたかは聞いていないけれど、大体察した。多分僕に更生してほしいのだろう。もちろん更生はさせる。だけどタダでは返すつもりもない。


 ユスティーナはニヤリと笑うと小さく礼をする。

「ありがとうございます」


 訓練、か。ただ訓練するだけと言うのもなんか味気ない。組手して罰ゲームでもさせるか? ありだ。それだったら何をさせる? 掃除をやらせるとかか。いや、別にそれはもともと彼女がしなければならない仕事でだ。罰ゲームでも何でもない。じゃぁ何だ……? 勉強でもさせるか。うん。それがいいか。


「ああ、そうだ。稽古するときなんだけど必ず1回は僕と組み手をしよう。もちろんハンデはつけるけどね。それで君が負けたら罰ゲームとして1時間マナーとかダンジョンについての勉強をして貰う。逆に僕に勝つことができたら休暇や、何か欲しい物があれば用意するよ」


「……良い」


「うん、多分明日には完成してるんじゃないかな? 時間の都合が付いたら呼ぶからそれまで待っていてほしい」

「わかった、よろしくお願いする」


 そう言って彼女は一礼すると部屋から出て行く。そして入れ替わるようにこんどはセツカが僕のそばに寄ってくる。

「ミヤジ様、ご教授ありがとうございます」


 ご教授って……さっきもその言葉使われたけど、僕はそんなたいそうなことをしたつもりはない。

「セツカには殆ど話している事だったからね、退屈したんじゃないかと思ったけど、どうかな?」


「退屈だなんて事はありません。そもそもミヤジ様のお声を聞かせていただくだけで、わたくしの励みになりますし」


 何かの宗教かな? まるで宝石でも見つけたかのように、目をキラキラと輝かせうっとりと僕を見つめるセツカ。そんな目で見られるのは少し恥ずかしい。だけど、彼女みたいな綺麗でおしとやかな女性に慕われるのは嫌ではないし、むしろ嬉しい。


「あ、ありがとう。もし別の事が知りたいとかあったら言ってちょうだいね。あと今ダンジョンコアに酒場っぽい所も他のと並行で作らせているのだけれど、出来たら一緒に飲みに行かないか? 久しぶりにセツカとゆっくり話がしたいんだけど?」


「ええ、もちろんいきます。1回と言わず毎日でもかまいません!」

 少しづつ接近してくる彼女に、後ずさりながら距離を保つ。

「そ、そうか。じゃぁ出来たら行こうか。本当にセツカみたいに知っている人が来てくれて良かったよ」


「そう言ってもらえれば私も志願して、面接を勝ち抜いて来たかいがありました」


 ふと、彼女の言葉に突っかかりを覚える。志願制? 志願制なんて超優良ダンジョンの空き募集くらいだろうに、なんで出来てすらいない僕のダンジョンが志願制になったんだろうか?


「……え、僕のダンジョンは志願制だったの?」

「ええ、それも今までで一番の倍率だったそうですわ」


 え? 確か僕が働いていた時に見た最大倍率でも20倍ぐらいだったんだけど。今回はどれぐらいだったんだろう。30倍とかかな? だったら社内で大ニュースになってそうだ。……それよりも彼女は近づくをことを止めないのだけれど、僕はどうすればいいのかな?


「そっか。で、でもセツカが選ばれたのは納得だよ。セツカは凄く能力が高いからね。メイド軍曹でも通用しそうだし」


「……実を申し上げますと、このダンジョンに来る前にわたくしに昇進の話がありました」


 コン、と足が壁にぶつかる。どうやら僕はいつのまにか壁まで追いつめられていたようだ。もう逃げ場は無い。

「え、あったの?」


「ですがわたくしはそれを辞退いたしました。まだその域に達していないと言うことで」

 僕から顔をそらし、ようやく足を止めるセツカ。


「え、でも給料減っちゃうよ?」

「それは構いません。実はちょっとした目標があって……それはまた改めてお話しいたしましょう。いいまはちょっとその……。話しづらいので、お、お酒の時にでも」


 ここでは話しにくいことなのだろうか? まぁ後でと言ってるし、後で良いだろう。


「そうだね、じゃぁ早くバーとか居酒屋を完成させないと……」

「ふふっ、楽しみにしております」


 彼女はゆっくりと腕を上げ、僕の服をぎゅっと掴む。そして数秒ほどして手を離すと小さく礼をし背を向け部屋から出て行く。僕はため息をついて辺りを見渡す。いつの間にかエヴァエルは退室していたようで、この場には僕とセラフィしか居なかった。


 セラフィはゆっくり立ち上がり、小さく伸びをする。

「色々たいへんじゃのう、ミヤジは」

「そう、だね」


「ふ。まあよいわ。のう、そろそろダンジョンコアの様子でも見ようぞ? 幾つかの作業も終わっているじゃろうて」

 確かに命令をしてから結構時間は経過した。頃合いだろう。


「そうだね。でもちょっと喉が渇いたから、食堂に行ってやらないか?」


 ダンジョンコアのリモート操作はダンジョン内であればどこだって操作が出来る。ただ、マスター以外は権限を付与しなければ使用することが出来ない。一応セラフィとエディスにだけ付与してあるから彼女たちだけは操作できる。セツカに付与しても良いが、まぁ今はそう忙しくないだろうし、ダンジョン運営を本格的に始めてからでいいだろう。


「そうじゃな」

 僕たちはそろってその部屋を後にする。


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