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ダンジョン協奏曲  作者: 入栖
さぁ、ダンジョンを作って冒険者を呼び込むのじゃ! ちょっと待ってセラフィ、それはまだ先だ。
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派遣されたメイド達

 ダンジョンと聞いて何を思い浮かべるだろうか。

 灯がなければ数メートル先しか見えない暗い洞窟。予断を許さない緊張感溢れる戦闘。冒険者の裏をかいた悪意溢れるトラップ。強大な力を持ったボスモンスター。そしてあふれんばかりの金銀財宝。

 ダンジョンを攻略する側、冒険者達の視点ではそうだろう。


 だけどダンジョンマスターにとっては違う。


『ダンジョンはビジネスである』


 それはかの有名な神であり、A&A商会の会長でもあり、アマテラスダンジョンのマスターでもあるアマテラス様が残した有名な言葉だ。……まだ生きてるけど。


 確かにダンジョンはビジネスである。


 経営者に問われるのはその手腕。ダンジョンの難易度、宝の配分、マナコストの計算、DPダンジョンポイントの有効利用、そして配下への給料等々。これらを上手くやりくりして侵入者である冒険者たちの数を調整しつつ、生命力や魔力を奪い取らなければならない。それらには緻密ちみつな計算が必要である。ダンジョン学を学んだ者ならばよくわかっているとは思うが、良いダンジョンとは様々なコストの計算がしっかりとおこなわれ、綺麗なバランスで成り立っているものだ。


「だからまず初めにしなければいけないのは、損益分岐点を出して、最低限の人員の目星を付け自身のダンジョンの難易度に合わせた構築を――」

「あー耳にタコが出来てしまうぞ。だからなんじゃ。結論を言え、結論を」


 片耳を抑えながら、心底嫌そうに言うのは僕の契約者であるセラフィだった。彼女は躑躅つつじ色の着物を身にまとい、椅子にもたれかかって髪を弄っていた。そして彼女が座っている席の前には、A&A商会のダンジョン学教科書が開かれている。

 

 また彼女の横には、A&A商会で派遣された二人の新人メイドが静かに着席していた。メイドは二人とも口にはだしていないが、セラフィと同じ意見だろう。顔にもっと言えと書いてある。

「最近の子はすぐこうなるから駄目なんだよ……」

「ミヤジよりも1000年以上生きているこなたに、よくそんな事が言えるのう……」


「あ゛ーとりあえずセラフィは完璧に覚えなくても良い。だけどメイド! 君たちはダンジョン経営学は必ず頭に叩き込むこと! もしダンジョンマスター就きメイドになったら、どんなことやらされるか分からないんだからね!」


「「は、ハイ!」」

 とはいえ『メイド三等兵』である彼女達は、次の配属先がダンジョンマスターであるかは分からない。僕のようなダンジョンマスターの可能性は高いだろうけど、本社の商売部の補佐として営業に回るかもしれない、もしかしたら神様のメイドとして派遣されるかもしれない。だとすればもっと幅広い教育も必要になるだろう。だが、しばらくはダンジョンで生活するのだから、ダンジョンについて知識を持ってもらわなければならない。結局は勉強してくれと言う事だが。


「まぁ、長時間やっても集中が続かないだろうし、今日はこの辺で止めとくか」

「やっと終わったのじゃ……」

「あ、ありがとうございました」


 そう言って二人のメイドは簡易学習部屋から去ってゆく。心なしか顔が沈んでいる気がするが気のせいではないだろう。僕は二人が居なくなるのを見計らって大きなため息をついた。

「それにしても、凄い子たち派遣されたな……」

 それはもういろんな意味で。

 

「確かにのう、こなたやそなたには勝てぬじゃろうか、かなりの力を持っていると見た」

 彼女達はA&Aメイド隊では最下級にあたる『メイド三等兵』ではある。しかし彼女達の種族が問題だ。


 一人は天使族の下位第8位の大天使アークエンジェルにあたる女性天使である。肩まで伸びた美しい金髪に、惚れ惚れする白い翼。少し釣り上った目に高い鼻、白い肌。絶世の美女だ。今はメイド服に身を包んでいるが、戦闘時には白銀と蒼色の鎧に、蒼色の槍を持つらしい。見たことはないがそう言っていた。


 つか、アマテラス様の所で彼女を見たことがあるような気がするんだけれど、気のせいだろうか。まぁ後でアマテラス様に聞いてみるとしよう。


 もう一人は『ヴィーヴル』族の女性で褐色の肌に深紅の瞳、そして美しい銀髪をショートにした子だ。彼女には普通の人間や獣人には無い特徴がある。ソレは額の宝石だ。彼女たち一族は額に美しい深紅、もしくは透明の宝石が埋め込まれている。

 また今は人の姿を取っているが、その本当の姿は炎の竜だ。彼女の宝石の色を見るに、まだ位は高くないだろうし、僕の方が強いと思う。だけど今の僕の手に負えなくなるぐらい強くなる可能性を秘めている。

 

 大天使に竜。


「まあ、派遣されたのには何らかの理由があるんだろうけど、さして気にしなくていいでしょ。まぁダンジョンについての簡単な説明は終わったし、そろそろダンジョン始動に向けて準備を始めようか」


「ふむ。まず初めにしなければいけないのはフロア作りじゃったか?」

「そうそう。まずはフロアを広げ……ってそうだ、セラフィにもダンジョンコアの使用権限の一部を付与しておこうか」


 僕はダンジョンコアのリモート画面を開き、セラフィに権限を付与する。セラフィは契約によって僕から裏切ることは絶対にありえない。そういった契約で結んでしまったためだ。ついでに僕と彼女はずっと一緒にいなければならないけど。

 それはそれとして……と。さて、いま彼女にどこまでの権限を与えようか。


 裏切ることは決してないのだから、マスター権限を付与しても良い。だけど全権限を与えるのは止めた。全権限を与えて『間違えちゃったテヘ』となってしまった場合、取り返しのつかないこともあり得るからだ。

 僕がセラフィの横に座りダンジョンメニューを開いて設定を変更していると、入口の魔法陣から緑のメイド服を着たエディスが転位してきた。


「ご主人様、セラフィ、紅茶をお持ちいたしました」


 セラフィは僕の契約者なので一応エディスのご主人様にあたる筈なのだが、なぜか呼び捨てである。これは天使メイドに聞いた話によれば、なんかしらの談合があったらしい。まぁセラフィも呼び捨てにされて何とも思っていないようだから別にいいか。フォルネウス先生にバレたらやばそうだけど、さすがにそんなミスはしないだろう。


 優雅な動作で紅茶をテーブルに置くと、今度はセラフィの前に置く。

「ありがとう」

 彼女はそのまま退室しようとしたので、僕は彼女を引き留め僕の隣に座らせた。


「どうされたのですか、ご主人様?」

「ダンジョンの今後について相談だよ。エディスを買い取ったらダンジョンマスターの全権限付与するし、経営もして貰う。エディスがダンジョンをこうしたいと言うのがあれば、今のうちに作ってしまおうと思ったんだけど」


 僕が買い取ったらと言った瞬間、エディスは花咲くようににっこりと笑った。彼女を買い取ることは最近無理矢理決められたものだが、まあべつにかまわない。だけどしばらくは無理だろう。彼女自身の価値が高いため、いっぱしのダンジョンマスターじゃ手も足も出ない。でもいつかは膨大なDPダンジョンポイントで彼女を買い取らなければならない。


「そうですね、わたしはダンジョンに関してはこれといってありません。ご主人様が作ったダンジョンで有ればなんでも良いです。ただ……」

「ただ……?」


 僕から眼をそらしたり合わせたり。視線は四方八方に向いて、まるで落ち着きがない。


「寝室には、その……な、何でもございません!」

 何やら顔を少し赤くして俯いてしまった。よくわからないけれど、何もないのなら別にいいか。深く追求してはいけないと僕の本能が言っている。


「のう、ミヤジはどんなダンジョンにしたいと考えておるのじゃ?」

 そう言うのは紅茶を飲むセラフィだった。彼女は黒髪に和服といった純和風ファッションの為、ティーカップではなく湯のみが合いそうではあるが、なぜかティーカップを持つ姿も様になっている。


「ああ、僕はコストがかかるのを承知で、様々な属性の入り混じったダンジョンを作りたいと考えている。一つ転位すれば灼熱のダンジョン。もう一つ転位すれば凍えるような吹雪のダンジョン、といった具合にね」

「ふむ、多属性迷宮じゃったか? そのフロアそのフロアでの属性を維持するためにコストがかさんでしまうとかいうやつじゃな」


 セラフィは嫌そうな顔していたけれど、僕の講義はしっかりと聞いているようだ。面倒なのは分かるが、ある程度は覚えてもらわないと困る。

「転位と仰っているのを見るに転位式のダンジョンですね。そちらも少しコストがかかりますね」


 ダンジョンは前の階層から次の階層へとつなげるためには、階段、魔法陣、ドアといった何らかの媒体が必要となる。基本的なダンジョンでは階段が多い。ソレはなぜか。理由はコストがかからないからだ。だが彼女が言っていた転位式、つまり魔法陣による階層移動にはコストがかかる。


 例えるならばエレベーターと階段だろう。階段は電気がなくても登れるけど、エレベーターは電気がないと動かない。

 だけど転位式には階段式に無い利点がある。


「そう、エディスの言うとおり僕は転位魔法陣を使いたい。周りの環境に左右されない自由なダンジョンを作りたいんだ」


 階段はある程度の地盤が無いと設置は出来ない。だけど転位魔法陣は違う。たとえ周りが海に囲まれた孤島みたいな場所でも、空中に浮かぶ島のような場所だとしても設置できる。


 僕が作りたいのは今までに無かった、様々な属性が入り混じったダンジョンだった。本来ダンジョンと言うものは何らかのテーマを決めて、それに合わせた地形モンスターを配置するのが普通だ。


 例を一つ上げるとすればアマテラス様の作った神都アマテラスにあるアマテラスダンジョン。これは自然が一つのテーマとしてあって、ダンジョン内は草木といった自然に溢れている。そして自然を破壊するような火系モンスターみたいなのはほぼ出てこない。代わりに草系のモンスター『アウラウネ』や『マタンゴ』と言ったのが多く、また自然の恵みを受けているモンスター、『ギョブリン』、『コボルト』、『オオカミ』などが出てくる。


「なるほど、それならば多くの冒険者を集めなければなりませんね……」

「ふむ、確か冒険者達の生命力や肉体がダンジョンコアの機能によってDPに変えられるんじゃったな。なるほどのう。ダンジョンを維持するために必要なのは冒険者。ダンジョンが特殊であればあるほどコストがかかり、より多くの冒険者達を呼び込む必要がある、と」


「ああ、それに関しては7割方合っている」

「ぬ? 7割じゃと?」


 そう、なにもDPを得る方法はそれだけじゃない。そもそも僕もダンジョンマスターになる前はそれでDPを得たんだから。

「実を言えば来る冒険者はゼロでもダンジョン運営は出来るんだが……これは二人のメイド達にも話したいな。この話はまたあとでにしよう」


 と僕が言うとエディスは深々と僕に礼をする。

「A&A商会のメイドの事まで考えて下さり、誠にありがとうございます」

「ゆくゆくはセラフィにダンジョン経営を覚えてもらわなければならないからね、もののついでだよ。それに僕の雇っているメイドが、よりよいメイドになってくれるならば助力を惜しまない」


 他のマスターの所でも使える位までは育てるつもりだし、ある計画も裏で実践中だ。まぁメイド達に教えるのは僕だけではなくエディスもだが。

 

「ふむ。それで結局今日はこの後何をする。フロアを広げると言っておったがどこを広げるのじゃ?」

「冒険者たちが挑むダンジョン作り、と言いたいところだけどまずはメイド達の娯楽部屋を作ろうかと思う」

 そう言うとエディスは不思議そうな顔をした。


「ダンジョンではないのか?」

「ああ、まずは働く者たちに良い環境を与えてあげたいからね」

 そう言って僕はダンジョンコアをリモート操作し、作った部屋の状況を見る。

 今現在作られているのは、僕たちの部屋、メイドの部屋、儀式場、そして調理場を含む食堂だ。まずはメイド達の体を清める風呂場を作ろうか。


「ご主人様、あまりメイド達に高待遇を与えてしまいますと、他のダンジョンへ行けなくなってしまいます」

 確かにその通りだ。だけど僕はわざとそうするのである。

「いや、いいんだエディス。ソレが目的なんだ。僕がしようとしている事の一つに囲い込みがあるからね」

「なに、囲い込みじゃと?」


 僕は確定ボタンを押す。そしてダンジョンコア使用率画面を開き、コア使用率が上昇しているのを確認し画面を閉じた。

「ああ、実はなA&A商会のメイド軍曹という階級以下は、基本的に数年で別のお客様に行き先が変更になるんだ」


 僕もそれでいろんなダンジョンを転々とした。中には待遇が悪くて今すぐにでも別の場所へ行きたいと思うこともあった。だけど凄く待遇が良いとその職場から移動したくない、そう思うだろう。

「だけど移動にならない場合がある。それは――」

 その僕の言葉を引き継いだのはエディスだった。

 

「それはメイドがココに居たいと直接申し出た時ですね。しかし何故囲い込みなんて事を?」

「あまりコロコロ変わると僕が覚えるのが面倒と言うのもあるけれど、いい人材を放出したくないっていうのが本音かな。それにメイド自身がここに居たいと言えば、値段は変わらないだろう?」


 実はA&A商会では以前雇っていたメイドが移動になっても、そのメイドを呼び戻すことも出来る。しかしあまりしたくはない。


「ん、どう言う事じゃ?」

「……なるほど。さすがアマテラス様の頭脳とまで言われたご主人様です。確かに一度離れたメイドを呼び出す為には指名料が別途かかります。だけどメイドが移動したくないと言えば基本的には移動は無くなりますから」


 地球の大手会社では社員に対して破格の待遇をしているところがある。食堂無料なんて当たり前で、バー、カラオケ、バスケコート、テニスコート等が設置され無償開放。それだけでなく出社時間自由、とても多い休暇数、ほぼ無料の社員寮の提供などなど。それらは社員のやる気向上はもちろんだが、引き抜きを減らす効果もある。良い人材の放出は会社にとって痛手だ。


 ダンジョン経営はどうか? すばらしいメイドを放出したくないからと、いつもより高い金をA&A商会に払う? したくないだろう。だったらメイドにずっとここに居たいと思わせれば良い。メイドが自分の意思でここに残りたいと言うのであれば、指名料金を払わなくて済む。


「追加料金をしぶしぶ払うのが嫌なだけだよ。まぁこのシステムの概要を考えたのは僕なんだけどね……」

 実を言うとこの執事メイド数年移動システムは僕が作り上げたものだ。以前までは基本的に執事メイドの希望での移動、もしくは数十年単位での移動が普通だった。だけどダンジョンマスターが執事やメイドに感情移入する事が多いことに気が付いた僕は、移動を早めることと指名料金をとることをアマテラス様に進言した。ソレを実施した効果は絶大だった。

 

「懐かしいですね。それで執事、メイド隊の売上が2倍近くまで伸び、執事一等兵から執事曹長と言う今までなかった階級アップがありましたね。『A&A会報』の一面を飾りましたし」

 ああ、あったあった。あの時は初めての取材だったから凄くカチコチになっていて、会報を見た時思わず笑ってしまった。

 

「ふむ、ミヤジはA&A商会では凄い人物だったのか」

「凄い、で済まされませんよ? 初めは天才やらアマテラス様のお気に入りとやら言われていましたけど、最終的には化物だとかアマテラス様の頭脳とまで言われていましたからね」

「天才と言われていたのは知っていたけど、化物になっていたんだね……」


 さすがに化物みたいなことはした覚えはないのだが。


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