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ダンジョン協奏曲  作者: 入栖
見たか、これがこなたの力じゃ! お疲れ様、セラフィ。何かご褒美はほしいかい?
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後日談① セツカの答え


 不愉快だった。

 バトルは最初からミヤジが勝つことは分かっていた。セラフィーナさんは私なんかがたどり着けない境地に足を踏み入れているような強さだったからだ。

 だからこそ当初の予定通りミヤジが圧勝した。相手のダンジョンマスターは激昂しミヤジに襲いかかるぐらい圧勝した。


 なにが不愉快か。それは今回ダンジョンバトルをしたダンジョンマスターはもちろんだが、今回はミヤジに対しても不愉快だった。

 私は目の前に注がれていた酒をのどに流し込む。


 ああ、最悪だ。アマテラス様からはお付き天使を外され、ダンジョンに回されたかと思えば、可哀そうな扱いを受けているあの子を見せられ…………。思い出すだけでも腹が立つ。飲んでいないとやっていられない。


 くそ。私は何でアマテラス様付きの天使をしていたんだったか? 今なんで私はダンジョンメイドなんてしているんだ?

「はあ……」


 私がため息をつくのと同時にカランカランとドアが開く音がする。入ってきたのはセツカさんだった。

「エヴァエルさん、こんばんわ」


 私の隣にセツカさんが座る。バー『狂い咲きメイド』には空いている席は沢山ある。だけど彼女はわざわざ私の隣に座るということは、なにか話でも有るのだろうか。


「その、申し訳ございませんが、今の私はミヤジ様に対して失礼な事を口走りそうです。ですから一人にしていただけませんか?」

 私には不愉快だった。DPを稼ぐだけで、あのいたいけな少女に手を差しのべないことが。


 確かにこの世界では奴隷は道具として扱われることが多い。特にこの大陸西側の国はその傾向が強い。でもあれは余りにひどいではないか。

 殴られる彼女をみてミヤジは何も感じなかったのか。痛みを堪える彼女の顔を見て何も思わなかったのか。


「そうですか。理由をお聞きしてもよろしいですか?」

 彼女はここから離れるつもりはないようだ。

「彼は助けられたはずなんです。でも彼女を見捨てた」

 奴隷はDPを使って買い取る事ができる。だから大量のDPをもつ今の彼なら交渉して簡単に購入することができたはずなのだ。


 だけど彼はしなかった。


「そうですか」

 セツカさんは差し出された透明なお酒を口にいれる。そして少しの間、何も言わなかったけど不意に口を開いた。


「エヴァエルさんは知らないかもしれませんが、ミヤジ様はそもそも奴隷肯定派ではありません」

「えっ、まさか?」


 では奴隷否定派だと? ミヤジが?


「ではこのダンジョンに奴隷はいますか? ダンジョンによっては奴隷で溢れているでしょう?」


 A&A商会のメイドは異様に契約料金が高い。メイド三等兵であっても、それなりにお金はかかる。DPが少ないうちはかなり痛いらしい。ならばどうやってコストを押さえるか。答えは簡単、奴隷を使うのだ。それはミヤジのダンジョン学で教わった。


「確かにそうですけど……」

「ミヤジ様は隠されていないのでお話しいたしますが、そもそもミヤジ様はこの世界出身ではありません」

「何ですって!?」


 アマテラス様がA&A商会に連れてきたことは聞いていたが、まさか異世界人だと!?

「アマテラス様のおさめる世界の一つにミヤジ様は生きていました。色々あってこちらに来たそうなのですが、ミヤジ様の元の世界では奴隷がほとんど居なかったそうです」


「そうなんですか……」

「エディス隊長から聞いた話ですが、この世界に来た当初ミヤジ様はその事でひどく心を痛めていたそうです」


 たしかに奴隷の扱いは本当にひどかった。私だって心が痛い。天界にいた頃に軽く話を聞いて知ってはいたが、実物はこんなに心にくるとは思わなかった。


「でもミヤジ様はどうしようもないことを悟ったとか」

 それはそうだ、例え神であってもその定着した意識を変えることは難しいだろう。できたとしても何百年かかってしまうことやら。

「ですからミヤジ様は偽善とわかっていても助けられる人だけ助けることにしたそうです」


「ならば今回のあの子は助けられなかったと?」

 そんな事はないだろう? 助けられたはずだろう。

「ふふっ」

 そう私が言うとセツカさんは口もとに手を当て優しく笑った。


「当初の予定ではですが、エヴァエルさんではなく私がミヤジ様と一緒にダンジョンバトルへ向かう予定だったのです」

「えっ?」

 私ではなくセツカさんが? ではどうして私が行くことになったのだ?


「一つの理由としてはミヤジ様はエヴァエルさんに経験をつまさせたかったのではないかと、私は推測しています」

 私に経験を積ませたかった、と言うことはダンジョンバトルのだろうか?

「ダンジョンバトルの経験ですか?」


 セツカさんは首を左右に振る。

「いいえ違います。世の中にはこう言った人もいるぞと言うことです。エヴァエルさんはほとんど天界にいらしたんですよね?」

「ええ、そうですが……」


「これは多分社会勉強みたいなものですよ。今なら分かります。アマテラス様も多分エヴァエルさんに社会勉強して貰いたかったのでしょう。だからアマテラス様はミヤジ様の所に送り込んだ。そしてミヤジ様は貴方を選んで連れて行った、それが貴方の為になると思って。私はそう思います」


 私に社会勉強なんか必要なのか? 私は天使なんだぞ? ほぼ天界から出ずに一生そこで過ごす天使すらいるくらいなのに。

「ふふっ。そんなの必要ないかと思っていそうですが、そういったことは必要なのですよ。自分の生まれ育った小さな世界だけではなく、もっと広い世界を見ることはとくに重要です」


「そうですか?」

「ええ、今後同じような状況になった時冷静でいられます。それに物事の見方や考え方の選択肢が増えますわ。そうですね、例えて言うならばこのお酒」

 セツカさんはそう言って自分のお酒を手に取る。


「お酒が目の前にあれば貴方はどうしますか?」

「飲むものでしょう?」

「それ以外には?」

 いや、私には酒は飲むものだとしか浮かばないが。


「昔の私でしたら、飲むか捨てるかの選択肢しかありませんでした。でも今ならこれを使ってお料理を作れることを知っています。また聞いた話ですが一部木材はつやを出す為にお酒を浸した布でふくこともあるそうですの。それにあるところでは消毒にアルコールを使うらしいですわ」


 料理に使うのは、聞いたことがある。だけど他の使い方は……しらなかった。

「そういった使い方ができると知ったことと、実際にしたことがあるからこそ、私はその考えが簡単に出てくるのですわ。だから知ることは自分の選択肢を広げるために重要で、仕事をする上でも重要になってきます。もちろん本でもそう言った知識や世界を知ることが出来ますが、実物を見る方が何倍も力になるんです」


 確かに言われてみればそうなのかもしれない。私が知っているのは小さな世界だけで、その世界でほぼ完結してしまっていた。だから必要最低限のことしか知らない。だけどアマテラス様の仕事は多岐に渡る。なにも知らないで手伝うことは不可能だろう。


「もしあなたが本当にアマテラス様の役に立ちたいと思うのであれば、もっと世界を見て自分を磨くことが大切だと私は思いますわ。そうすることでよりアマテラス様の力になれる筈です」


 目から鱗だ。なんだこの人は。私よりも長く生きていない筈なのに、どうして私よりも達観しているのだろう。

 私は自分自身が恥ずかしくなり、目の前のグラスをグッと傾ける。そして次を頼んだ。


「ふふっ、ふふふっ」

 セツカさんはニコニコ笑いながらつまみを食べる。

「と、実を申しますと、今まで話したことはほとんどミヤジ様の受け売りなんです」


「えっ!?」

「私もミヤジ様に同じことを言われました。私の場合は……両親がA&A商会員でしたので、必然のようにA&A商会に入会しました。ですが少し失敗してしまった事がございまして……その時ミヤジ様に助けていただいて、この言葉をかけてもらったんです。そして、私が見たことのない世界を見せてくれました」


 彼女が達観したのはミヤジ……さまのおかげだと言うのか?

「だからエヴァエルさんも世界を広げて見て下さい。そして今後エヴァエルさんも使いどころがあったら言ってみてくださいな」

「そんなところ、私にありますか?」


「絶対にあります。エヴァエルさんは必ず誰かの上に立つ人になるでしょう。もしどうしていいか分からない人がいたら世界を広げてあげて下さい」

 私が誰かの上に立つことか。本当にそんな日が来るのだろうか?

「さて、そろそろ本題に入りましょうか」

「本題ですか?」


「ええ、先ほども話していたではありませんか。エヴァエルさんが私と変わってダンジョンに出向いた理由です。ミヤジ様にも伝えるよう頼まれましたし」

「? え、何をでしょうか」

 ミヤジ……様に何を頼まれたと言うのだろうか。私なんてただの一メイドにしかすぎず、話さなければならないことなんかもほとんだない筈だが。


「あの奴隷の事です」

「!?」

「あのダンジョンバトルの時にわたくしが居なかったのは、あの少女の事で動いていたからです」

「それは本当ですか!?」


 思わず立ち上がり叫んでしまう。私は自分の声に自分で驚き辺りを見回す。幸いにも私たちのほかに客はいなかった。

「ええ、もちろんミヤジ様の命を受けてですわ。ミヤジ様はあの子を買い取るつもりだったようです。以前私がダンジョンバトルの詳細打ち合わせに赴いた時に、ミヤジ様は奴隷のひどい扱いに苛立っておいででした。知っていますか? ミヤジ様は怒ると笑顔になる事が結構多いです。特にお客様や他者の前では」


 ソレは、知らなかった。

「最初はあのダンジョンを潰すつもりは無かったそうですが、潰すのもアリだと考えたのでしょう」

 そうだ。ミヤジ様の目的はダンジョン賭博で得られるDP。だったら勝てれば良いだけでダンジョンを潰す事はしなくて良かった筈だ。


「私がミヤジ様と同行をやめた代わりに命令されたのは二つ。一つはA&A商会のメイド学校に通わせる為の準備。もうひとつは……テラス帝国の村に住まわせる為の準備」

「……それで、彼女は一体どうしたんですか?」


 ダンジョンマスターにあれだけ酷いことをされた彼女はもうこりごりと思ったんではないだろうか。

「彼女は……A&Aのメイドを選びました。多分彼女はダンジョンしか世界を知らないからでしょう。もちろん奴隷と言う身分ではなくなりました」


「そうですか……」

 意外ではあるが本人がそう望んだのであれば、それでいいのだろう。とりあえず理不尽な暴力をふるわれることはもうない。それが聞けただけで良かった。


「私はそのことを伝えに来たんです。ふふっ。良かったですね」

 どうやら私は顔に出てしまっていたらしい。

「はい……」


 急にセツカさんはパンと手を叩くと笑顔でこう言った。

「では私の推測、『エヴァエルさんに経験を積ませるためにわざと連れて行った』かどうか本人に聞いてみましょう!」


「はい…………は?」

 何を言い出してるんだセツカさんは? ミヤジ様本人に確認する?

 私が混乱しているうちにセツカさんはダンジョンコアのリモート画面を開き、メッセージを送る。


「あの、えーと……」

「ミヤジ様なら大丈夫です。お酒の場面でそんな緊張したり、畏まらなくても」

 そういうことを言いたいのじゃないんだけど……いやただ単に彼女はミヤジ様に会いたいだけなのではないか? そんな気がするが、まぁいいか。


「ふふっ」

 心なしか嬉しそうなセツカさんは、お酒をうっとりと見つめていた。私はセツカさんを見てふと思ったことを聞いてみた。


「そう言えばセツカさん」

「はい? 何でしょう」

「ミヤジ、様からいろんな世界を見せてもらったんですよね、それでセツカさんはどうでした? 何か変わりましたか? なにか見つけることが出来たんですか?」


 何を感じて何を思って、そして彼女は何を見つけたのだろうか?

 そう言うとセツカさんは満面の笑みを浮かべる。


「もちろんです。私はミヤジ様に様々な物を見せていただき、そして沢山の選択肢を与えていただきました。結果、ミヤジ様の下でダンジョンメイドをしています。それがすべてです」

 思わずため息が漏れた。

 

 なるほど、セツカさんらしい答えだ。

 

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