第27話 推し勝負!
会場の興奮は時間が経つ毎に密度を増していた。
フリーで移動するサチの周囲には、盲目的なファンによる巨大な壁が形成されている。
他のメイドとはあからさまに格が違った。
遠巻きにそれを見つめる龍一の口から言葉が失われる。
サチを囲むファンの群れには龍一を凌ぐ、2メートル超えの屈強な男の姿もあった。
さらにはアメリカンフットボールの選手さながらに肩を組み、強固な防壁を作る体格の良い男たちが隙間なく並んでいる。
一般のオタクが容易に近づけるような空間ではなかった。
これでは、アレックスにオタク仲間のカムフラージュを頼んだ意味など、最初から皆無だった。
サチの魅力は十分知っていた。
その絶大な人気も知っているつもりだった。
だが、これほどとは。
プリンスの絶対的な身体能力を使えば人間の壁を超えるのは簡単だ。
しかし、それは同じ人を敬う相手に対して失礼極まりない行為だった。
龍一は気合を入れ直し、男たちの濁流へと力強く飛び込んだ。
押し寄せる屈強なファンたちの隙間に割り込もうと、巨躯をねじ込む。
その行く手を阻むように、立ちはだかる巨大な影があった。
2メートルを優に超える男が、威圧感を漂わせながら龍一を見下ろす。
サチの親衛隊を統率しているかのような鋭い眼光。
「不届き者! サチちゃん様に金玉のごとき顔を見せるな!」
その風格ある男の怒号が、騒然とする会場に響き渡った。
むわっとした熱気の中で放たれた、あまりの罵倒に龍一の導火線に火がつく。
「あぁ? 勝手に仕切ってんじゃねぇぞ!」
愛はパワー。
サチは男たちが愛を競い合う光景を嫌っていない。
むしろ推奨していた。
理屈ではないオタクの情熱が至近距離で激しくぶつかり合う。
「おまえ、サチちゃん様がひまわりレボリューションダンスを失敗して、転んだ時の下着のキャラを知っているのか?」
風格ある男が知識で格の違いを見せつけるように吼えた。
「馬鹿言ってんじゃねぇ。友達の「星の中キララちゃん」のパンツを履いてたに決まってんだろうが」
龍一もまた負けじとオタクとしての強力な知識を返す。
緊迫した睨み合いが続く。
ただし、サチを巡る争いにおいて暴力はNGだった。
サチはひまわりの化身メイド。
殴り合いをしたら衝撃で枝が折れてしまうし、流血ではなくお水がほしい設定だ。
今度は龍一の番だ。
「おまえこそ、サチちゃんがクレクレクレッシェンドライブ☆の後で5秒だけ配信した伝説の動画を知っているのか」
「あの動画のお日様衣装を俺は絵に描けるぜ」
風格のある男は思い出の可愛さに目を細めた。
誰もが見落とすような一瞬の配信内容を、完璧に脳内へ記憶している。
お互いの底知れない愛の深さと知識量が真っ向から火花を散らした。
周囲の防護壁を作る男たちも、二人の高度な応酬に息を呑む。
決して退けない誇りと意地のバトル。
「サチュリーン……」
「ウルトラミラクル……」
今度はサチの正式名称を交互に唱える。
「アラタマミタマイ……」
続いて2人の声が重なった
「「フォーンティーンオイネレスバーン♡マイダーリン月下狂騒トランバルザー……」」
フォーンティーンオイネレスバーン♡まではオタクの常識。
マイダーリン月下狂騒までは初期オタクでないと知らない。
トランバルザーから先は伝説の域だ。
オタクの間に緊張が広がる。
誰もがそのあまりに尊い詠唱に圧倒されていた。
サチへの愛を証明する神聖なる唱和。
「ナラシンハ!」
龍一が言い切る。
だが、相手はにやりと笑った
「そこでしまいか?」
「なに!?」
「……コモモスモモ」
いつから見ていたのか、サチが風格のある男へサムズアップ。
「グハッ!」
龍一の完全敗北だった。




