第25話 獣の参加表明
「すいません、頭の上の子、可愛いですね? 非売品ですか?」
「あ、ありがとうございま――」
ルナは輝く笑顔で振り返り、シェルトドーガを見て目を丸くした。
彼女の頭上では白い人形が小さなフリル付きのメイド服を纏い、ぴったりと吸い付いている。
どうしてもと運営にわがままを言って、メイド服着用を条件にニクシーを頭へ乗せる許可を勝ち取ったのだ。
「お仕事お疲れ様」
「労いありがとう。いらっしゃいませ。君がメイドさんに興味があるとは思わなかったよ。お気に入りの子のブースまで案内しようか?」
ニクシーを褒められたからか、ルナはウキウキだ。
柔らかい口調が楽しげに弾んでいる。
「メイドに用があるのは龍一。今日、竜子ちゃんとか他の奴と来てるよ。なんかひまわりみたいな子に会いたいらしい」
「ああ、サチちゃんだね。すごい可愛いよね。あっちのブースのユュちゃんもおすすめだよ」
ユュちゃんは闇堕ち姫属性だ。
ルナはおすすめを並べながら案内係としての役目を果たそうとした。
「ぼ く は ル ナ ちゃ ん が か わ い い と思いまーす!」
大声を張り上げたシェルトドーガにルナの表情が固まる。
「なあにその顔?」
「いや、ぶれないなあと思って」
ルナは案内係なのだが、あまりやることがなく、こうして雑談をしていても咎められることはなかった。
会場にいるのは推しに熱狂的なオタクたちばかりだ。
お目当てのブースは頭に入っていて然るべきであり、わざわざスタッフに場所を尋ねる者などいなかった。
「何度でも言うよ? 僕は可愛いルナを想って昨日もおちんちんをしご――」
「待って! いいの!? そんなこと、本人目の前にして言っていいの!?」
ルナは慌ててシェルトドーガの言葉を遮った。
「おちんちんを扱きました」
「言っちゃったよ」
ルナは両手で顔を覆う。
「扱かれました(裏声)」
おちんちんさんの人格に追撃までされて、ルナは全力で話題を変えようとした。
持っていた案内用のチラシを必死に差し出す。
「午後のステージイベントでね、一般で飛び入り参加できる枠があるんだよ。アピール時間ももらえるらしくてね。男性でも問題ないっていうから、君どうかな?」
午前中にサチちゃんに近付けなかった場合、龍一はそれに参加するつもりらしい。
「参加ってメイドさんにならないとダメなの?」
「もちろん。メイドさんイベントだからね。貸出のメイド服もいろんな形、サイズが用意されてるよ」
参加者のアピール時間は会場のボルテージによって延長されるとある。
そこで大好きなメイドさんへの愛を叫ぶも良し、あるいは何かしらのパフォーマンスを披露するのも良しだ。
もっとも、龍一が叫ぶのは別れの挨拶だが。
「一般参加にはいろいろ景品もあってね、参加賞の石鹸から、ほら、こんなものまで」
チラシの裏には選べる景品写真の一覧があった。
ルナが指差したのは、ドールを座らせるための豪華な玉座だ。
必要最低限のものしかないルナの六畳間。
きっとニクシーの間を作る夢を見ているのだろう。
「ルナが出ればいいのに。お仕事暇でしょ? 見たいな、メイド姿」
「スタッフだから出られないよ」
過去の特別賞例をシェルトドーガは熱心に見つめている。
最高齢賞(なんと100歳のおばあちゃまが受賞)。
現役ボディビルダーによるマッスル賞。
後に芸能界入りした人のソロギター賞。
10人組による組体操賞。
3つ子ちゃんによるシンクロ賞。
駅名100個噛まずに読み上げ賞。
そんな中にエロ要素全開の賞が混じっている。
ルナはシェルトドーガの目が光るのを見た。
「自前の衣装や道具の持ち込みは可?」
案内係用質問例に載っていた基本中の基本の質問だ。
「はい。危険物でなければ可能です」
ようやく仕事らしい仕事ができたルナは、少しだけ胸を張った。
「ふむ……。自前の道具は可か」
最高のパフォーマンスの構想が、彼の脳内で完成しつつあった。
午後のエントリーまでに色々準備しなくては。
「また、後でね。大好きだよ!」
両手でハートマークを作り、風の如く去っていく。
「ははっ……本気なんだ」
ルナは小さく笑った。




