第24話 メイドイベント開催
――巨大なイベント会場は異様な熱気に包まれていた。
今世紀最大のメイドさん人気投票。
そこは天井まで届きそうなほど、年齢もさまざまな男たちの歓声が渦巻いていた。
押し寄せる圧倒的なオタク量から放たれる生々しい熱量が会場の空気を物理的に白く濁らせている。
そんな人混みの中を五人の影が歩いていた。
そのうちの一人、龍一は眼鏡の奥の目を血走らせ、肩を怒らせ進んでいる。
彼の今日の目的は大大大推しであり、本イベント1位候補でもある、ひまわりの化身メイドのサチに別れを告げることだった。
そしてその決別を、隣を歩く竜子にしっかりと見てもらうことだ。
最近知り合ったばかりというのに彼女に傾倒している龍一にとって、これは男としてのアプローチの大事な一歩だった。
しかし、女子に弱い性質ゆえ、一歩進む毎に勢いが抜けていった。
「サチちゃんに直接会う機会はあるのか?」
龍一から応援役として同行を頼まれたインバッハ。
付き合いのよい彼は龍一の目的が達成されるよう全力でバックアップするつもりだ。
「午前はとりあえずフリーで動いてるサチちゃんに近寄れるか試して、ダメなら午後に一般人がステージに参加できる企画があるから、それで側に行く算段だ」
「そこまで決まってるのに、なんで俺を呼んだんですかー?」
不満そうなアレックス。
「すまん。俺は目立つからオタク仲間としてカムフラージュになってほしくて」
いかにも兄貴な見た目の龍一に比べ、貞子前髪にガリガリ猫背のアレックスはオタク感が強かった。
しかし、本質は6神の中でもっとも女を喰らい、売春、薬、賭博などアンダーグラウンドな世界に精通した人物だ。
「まあ、せっかく来たんですし、こっちはこっちで楽しませてもらいますからねー」
その楽しみにどんな黒い意味合いが含まれているのか、誰も知らない。
「はい、これ」
竜子が四人に横長の紙を差し出した。
プリンスの龍一。
ブリザードのインバッハ。
ベルゼブブのアレックス。
そして、日雇いスタッフとして参加しているはずのルナを探して、目をギョロギョロさせているビーストのシェルトドーガ。
四人の神へそれぞれ手渡されたのは投票用紙だった。
竜子はパンフレットをめくり、載っている女の子たちを眺め始める。
その表情はとても楽しそうだ。
彼女はメイドでも6神でも各人のアピールポイントやネックとなる項目を確認するのが好きだった。
火は水に弱いが、木には強い。
そういった属性の組み合わせや、ステータスの相性を考えるとワクワクするのだ。
「すごいこの子、可愛いね。今日会ったら告白するの?」
竜子がパンフレットを掲げる。
そこには見開きを丸々使って、黄色の髪をした眩い笑顔の少女が載っていた。
2次元オタクの龍一が惚れ込むような、2次元に寄せた完璧なメイク。
スラリとしたスタイルには不釣り合いなほど豊かに張った胸元。
さすが今大会の1位候補、大人気メイドのサチだ。
ぐっ。
龍一の喉が詰まる。
竜子にはサチと決別する予定を告げていない。
「それはこれからのお楽しみだよ竜子ちゃん。こいつの意地を見ててやって」
インバッハが軽い口調で間に入り、話を流した。
「男の意地なんて、ほぼほぼ下半身の都合でできてますからねー」
「そうだよ、竜子ちゃん、男って本体が╰⋃╯だからね」
シェルトドーガは当然の事実であるというように言い放った。
龍一の巨大な拳が繰り出されるが、アレックスとシェルトドーガはクネクネと避けていく。
軟体動物めいた回避の最中、シェルトドーガの目は遥か遠くに目的の人を見つけた。
オタクの濁流の隙間。
スタッフの白いポロシャツを着た高身長の金髪の背中だ。
「また後でな」
シェルトドーガは短い言葉を残し、人混みの向こうへと一瞬で消え去った。
「あいつがご執心な女ってどんな子なんですー?」
残った中でルナに会ったことがないのはアレックスだけだ。
三人が同時に答える。
「「「男にしか見えない」」」
「えー、あいつそっち趣味でしたっけー。一時期、巨乳にハマってませんでしたー? あと、ほらおんなじビーストの雌もいたでしょ」
アレックスが記憶を掘り起こすように言った。
「リサちゃんのことはあいつの前で出すなよ」
龍一が真剣な顔で釘を刺す。
こないだその娘の件で険悪になったばかりだ。
「でも確かバストサイズが1センチ違う女性と次々付き合って、自分に合う大きさの相手を見つけるんだって言って――おっと」
インバッハが言葉の途中で慌てて口を噤み、竜子を見た。
しかし、竜子は猥談など全く気にならない様子だ。
彼女は一切動じることなく三人を見返す。
「武器でもバストでも自分の手に馴染むサイズを探すのが基本では?」




