第15話 マジでっ!?
「そんな風とともに去りぬ感じでいいの?」
シェルトドーガが当然のようについてくる。
君は電車で帰るほうがいい。
そう何度言っても、少年は聞く気がまるでなかった。
しばらく歩いたところで、シェルトドーガはルナの様子がいつもと少し違うことに気付いた。
別にふらついているわけではない。
弱音を吐くわけでもない。
ただ、なんとなく分かる。
ああ、これ、空腹だな、と。
そういえば朝のパフェ以外、なにも食べていないはずだった。
「はい」
しばらく考えた末、少年は肩に担いでいた大型ケースをルナへ差し出した。
「好きに使っていいよ。僕は持ってるほうだから、本当にこんなのいらないんだ」
できるだけ軽い調子で言う。
また試すような真似だと機嫌を損ねるだろうか。
アパートで値踏みしたときは彼女なりに盛大な拒否をされた。
だから少し慎重になってしまう。
施しではない。恩を売りたいわけでもない。
ただ、自分には必要がなくて、今のルナには必要そうだった。
「好きに使っていいの?」
意外な反応だった。
もっと「爆弾はもうないから」とか、「もらう義理はない」とか、渋ると思っていた。
「ありがとう」
受け取ってくれたのは、彼女なりの礼なのかもしれない。
「はい、どうぞ」
贈り物を受け入れてもらえたことが嬉しい。
まるでクリスマスだ。
大型ケースがルナの手に移る。
「どうする? これで今のボロアパートから脱出できるし、ラブホでなんかバイトしなくてよくなるよ? 僕さ、マンションに住んでるんだけど一緒に住む? 家具とか好きにしていいよ」
ウッキウキのシェルトドーガに構わず、ルナは歩き出す。
「おしゃれする? 試着室の前で彼氏面して待つよ。あ、実際、もう彼氏だな、うん」
「ふふっ」
ルナの視線の先、保護犬・保護猫への寄付を募る愛護団体のスタッフがいた。
「え?」
当然のようにケースがおばさんの手に渡る。
ケースの中身を確認したおばさんの表情が変わる。
「は?」
突然の大口寄付に驚きながらも、スタッフたちは本部への連絡を始めた。
周囲は一瞬で慌ただしくなった。
どうやらルナが「他の保護団体にも渡してほしい」と伝えたようだった。
「えぇ?」
あとはスタッフに任せて、ルナは再び帰路につく。
「なんで? なんで? なんで? そりゃ好きに使ってって言ったけどさあ!」
シェルトドーガは両手をぶんぶん振り、全身で納得いかないと訴えている。
「無意識じゃなく、お金を好きなように使うのは素敵な気分になるね」
ルナは悪びれもなく、さらりと言っただけだった。
「あぁ、もう、ルニャーゴさんさぁ……」
呆れを通り越して、もはや脱力したような声になる。
肩を落とし、遠い目でルナの背中を見る。
「よし、その生き様理解した」
「ご理解いただけて何より」
「まぁ、試合に勝てなくても秘密を教えてもらったし……」
「え? なにか教えたかな?」
「テイカーでしょ!? とんだ秘密を隠し持ってたもんだよ。まさにマジっ!?ってやつだ」
「あぁ……」
思い出したような、あるいは大したことではないと言わんばかりの薄い相槌だった。
「本当はもっとびっくりする秘密をお伝えする予定だったんだけどね。隠し事がたくさんあるから」
「えー? テイカー以上にびっくりするような秘密が他にもあるの? さすがにないでしょう。盛りすぎ」
シェルトドーガは笑いながら半ば冗談として受け流す。
ルナもつられるように小さくクスクスと笑った。
「よく聞いて?」
「はいはい」
シェルトドーガも、まだ軽い笑いを残したまま応じる。
「実はね――」
「はい」
「ニクシーは喋れるんだ」
「マジでっ!!!???」
一方、その頃――
爆弾に怯えるルナが戻るものと思い込み、ホストたちは控室で慌ただしく騒いでいた。
「いや、ほんとっすよ。あのスーツがオーダーメイドってだけじゃなくて、内ポケットに入ってたペンっつーか、なんか筒みたいな形のやつ、スキャンした内容を詳しく調べさせたら、マクラクランの軍用のなんかなんですって!」
ホストの乏しい語彙ではうまく説明しきれなかったが、それは世界を統治する三大勢力“3M”のひとつ。
最も歴史が古いマクラクラン家に由来する軍用品らしいという結論に落ち着いていた。
「本人がマクラクランの人間って可能性は!?」
「あるわけねぇだろ! マジックテープ財布に三千円しか入ってねぇ奴だぞ!」
マクラクランは直系のみで構成される一族であり、分家という概念はない。
3Mの中でも謎が多く、当主でさえ公の場に姿を見せることが少なかった
「でも、もし本当に関係者だったら……」
部屋の空気が一瞬だけ重くなった。
「お前ら、金の卵を産む鶏はな、ゾーキしちまったらもう金の卵が手に入らねぇんだよ。だから、つまり、あーっと……」
幹部はそれらしいことを言おうと試みたものの、やはり知性が追いつかず、途中で言葉に詰まった。
結局のところ彼らは正体も真意も測りきれないまま、二度と戻らないルナを待ち続けるのだった。




