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EP 6

クズエルフはパチンコに負けると、他人の手にタバコを押し付ける。

「……ほう。これが異世界の街か」

森を抜けた俺たちを出迎えたのは、活気に満ちた巨大な防壁都市だった。

馬車が行き交い、露店からは香ばしい肉の匂いが漂う。空を見上げれば、気球のような小さな飛行船が飛んでいる。剣と魔法のファンタジー世界でありながら、どこか近代的な資本主義の匂いがする。

ダイヤが捕縛した野盗どもを衛兵に引き渡し、俺たちはその足で『冒険者ギルド』へと向かった。

「ギルドで身分証ギルドカードを作らないと、この世界ではまともな商取引も口座開設もできませんからね。健人様は今日から新米冒険者ですわ」

「口座引き落としもあるのか。妙に近代化されてんな、この世界」

ギルドの重厚な木扉を押し開けると、むせ返るような酒と汗、そして血の匂いが漂ってきた。

昼間から酒をあおる筋骨隆々の獣人や、防具を手入れする魔法使いなど、いかにもな荒くれ者たちがひしめき合っている。

新米の俺が受付に向かおうとした、その時だった。

ファンタジーのお約束テンプレ通り、俺たちの進路を塞ぐように、柄の悪い三人組の男が立ち塞がった。

「おいおい、見ねぇ顔だな。しかもこんな上玉のネーチャン二人も連れてよォ」

ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべ、リーダー格の男がダイヤとリリスを舐め回すように見る。

「なぁ兄ちゃん。新人の挨拶ってもんを知らねぇのか? その嬢ちゃんたちを一晩俺たちに貸すか、有り金全部置いていくか……」

(出た。異世界のゴロツキ名物『絡み』だ)

俺は瞬時に脳内でコスト計算を始めた。

ダイヤに戦わせるか? いや、彼女の魔導サブマシンガンの魔法弾(魔石)は一発数十円〜数百円のコストがかかる。剣を抜かせても、刃こぼれしたら研ぎ石代を俺に請求してくるだろう。

なら、俺がまた10万円の枠から『スタンガン(約3000円)』でも召喚するか? ……いや、こんなチンピラのために限度額を削るのはコスパが悪すぎる。

俺が「どうやって一番安上がりに対処するか」を考えていた、その時だった。

「……あー、うるせぇうるせぇ」

背後から、ひどく掠れた、気怠げな声が響いた。

振り返ると、そこに立っていたのは……絵画から抜け出してきたような、超絶美形の男だった。

透き通るような白い肌、長く美しい金髪、宝石のような瞳。

耳が尖っている。エルフだ。しかも、全身から漏れ出る魔力の波動が尋常ではない。

だが、そんな神々しい容姿とは裏腹に、男の目は完全に死んでいた。

髪はボサボサで、服はヨレヨレ。口には太い葉巻ポポロシガーをくわえ、全身からキツい酒の匂いを漂わせている。

「あぁん? なんだテメェ、優男のエルフがすっこんでろ!」

ゴロツキの一人が凄んだ。

エルフの男は、虚ろな目でゴロツキを見た。

「……あのなぁ。俺は今、めちゃくちゃ機嫌が悪いんだよ。ルナミス・パーラーの『CR異世界転生トラックでドン!』で、あと一歩でガオガオンのプレミア演出が出そうだったのに、天井手前で単発を引きやがって……昨日の勝ち分まで全部スッたんだ」

「はぁ? 何言ってんだテメェ……」

「だから、俺の横で大声出すなっつってんだよ」

男は、自分の口にくわえていた葉巻をスッと手に取ると。

――ジュッ。

「ギャアアアアアッ!?」

ゴロツキの右手の甲に、赤々と燃える葉巻の火を、躊躇いなく押し付けた。

肉の焦げる嫌な臭いがギルド内に漂う。

「テ、テメェェェ!! 殺してや――」

激痛にのたうち回りながら剣を抜こうとしたゴロツキの顎へ、エルフの男は自分が杖代わりに突いていた『世界樹の枝で作られた両手杖』を、下からカチ上げた。

ゴグッ!!

「あべッ!」

鈍い音と共にゴロツキの体が宙に浮き、そのまま白目を剥いて床に沈んだ。

残りの二人も「ひっ!?」と怯むが、エルフの男は気怠そうに杖を肩に担ぎ直した。

「ほら、お前らも燃やされたいか? ちなみに俺、無詠唱で炎と氷の多重魔法撃てるけど。ここ一帯、更地にすんぞ?」

その瞳に宿る、圧倒的なまでの『面倒くささ』と『狂気』。

ゴロツキたちは一瞬で自分たちとの実力差(と相手がヤバい奴であること)を悟り、「ひぃぃぃっ!」と悲鳴を上げて仲間を引きずりながら逃げていった。

「……ふん。パチンコ負けたイライラが少しは晴れたぜ」

エルフの男は、ふたたび葉巻をくわえ直して紫煙を吐き出した。

助けられた形になった俺たちだったが、あまりのクズっぷりに言葉を失っていた。

「……何ですの、あのエルフの皮を被った生ゴミは」

ダイヤがドン引きした顔で呟く。

「いや、ダイヤ。俺たちもあんまり人のこと言えない状況みたいだぞ」

「えっ?」

俺が指差した先。

気絶して引きずられていったゴロツキたちが立っていた場所で、ピンク色の芋ジャージを着た女神が、何やらホクホク顔でしゃがみこんでいた。

「ふふふぅ〜♪ ご寄付、ありがとうございますぅ!」

リリスの手には、さっきのゴロツキたちから見事にスリ取った、パンパンに膨らんだ革の財布が握られていた。

騒ぎに乗じて、息をするように盗んでいたらしい。

「お前、女神のくせに何やってんだ!?」

「えっ? だってルチアナ先輩のカンペに『悪者からは巻き上げろ。それは神への供物である』って書いてありますぅ!」

「それはカツアゲって言うんだよ! 天界の倫理観どうなってんだ!!」

俺のツッコミがギルドに響き渡る。

すると、エルフの男が俺たちを見て、ニヤリと口角を上げた。

「……ははっ。お前ら、おもしれぇ連中だな。特にそのジャージのネーチャン、手癖が悪くて最高だ」

「あ、ありがとうございますぅ!」(←褒められてると思っている)

「俺はウィスター。しがない魔法使いだ。……なぁ兄ちゃん、さっきの『供物(財布)』、かなり重そうじゃねぇか。どうだ? 俺がゴロツキを追い払ってやったお礼に、一杯奢ってくれよ。極上のサケスキーが飲める店を知ってんだ」

金髪の超絶美形エルフは、見事なまでのヒモの笑顔で俺に肩を組んできた。

俺(90万の借金持ち)、ダイヤ(極貧令嬢)、リリス(リストラ窃盗女神)、そしてウィスター(ギャンブル依存症エルフ)。

最悪のパーティが、ここに結成された瞬間だった。

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