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EP 2

チートスキルは『他人のリボ払い』でした。

「……クレジットカード?」

俺はリリスから渡された、見慣れたプラスチックのカードを胡乱な目で見つめた。

券面は黒を基調としたシックなデザインで、右下には地球の某有名国際ブランドのロゴが燦然と輝いている。名義人は『LUCIANA』。

「はいっ! 女神の権限で地球のシステムと繋がっている、究極のチートアイテムですぅ!」

「チートアイテム。……まあ、たしかに異世界で地球のネット通販が使えたりしたら、そりゃチートだけどさ」

「使えますよ! 健人さんのポケットに入っているスマートフォンを見てください!」

言われるがまま自分のジーパンのポケットを探ると、俺のスマホが入っていた。

だが、画面を開くと見慣れないアプリが一つだけ鎮座している。アイコンはデカデカと『神様Pay』と書かれていた。ダサい。

「そのアプリから、日本のネット通販で欲しいものを検索して『召喚』ボタンを押すだけで、限度額の100万円までなら何でもこの世界にお取り寄せできちゃうんですぅ! 凄くないですか!?」

「マジで!? 100万円分も物資を出せるのか!?」

俺は思わずテンションが上がった。

水、食料、サバイバルツール、果ては現代の薬品や嗜好品まで。100万円分の枠があれば、異世界で商売をして大金持ちになることだって夢じゃない。経済学部で学んだ知識と、コンビニの在庫管理スキルが火を吹くぜ。

「やるじゃんリリス! さすが元女神! で、利用可能額はどうなってる?」

「えっとぉ……アプリのトップ画面に出てるはずですぅ」

俺はウキウキしながら、アプリの『ご利用状況』タブをタップした。

画面に表示された数字を見て、俺の思考は3秒ほど完全に停止した。

――――――――――――――――

【ルチアナ様のご利用状況】

・ご利用可能枠:1,000,000円

・現在のご利用額:900,000円

・ご利用可能額:100,000円

――――――――――――――――

「…………は?」

俺は目を擦り、もう一度画面を見た。

何度見ても、利用可能額は『10万』だった。

「おい。なんだこの90万って。俺、まだ1円も使ってないぞ」

「あ……えっと……ルチアナ先輩の……ツケ、ですね……」

「ツケ!?」

俺は震える指で『利用明細』を開いた。

そこにズラリと並んでいたのは、目を疑うような履歴だった。

・朝倉月人 アリーナツアーVIP席チケット:100,000円

・朝倉月人 公式ライブDVD(初回限定版):12,000円

・スマホゲーム『月人アイカツ』聖石100連ガチャ:30,000円×10回

・福岡行き 往復航空券ファーストクラス:150,000円

・福岡名物 明太子(業務用100kg):300,000円……etc

「…………」

「あわわわ……健人さん、目が死んでますぅ……」

「……リリス。お前の先輩、異世界でオタ活してんのか?」

「はいっ! 私もよく、ルチアナ先輩に無理やり連れられて地球のフクオカってところでペンライト振らされましたぁ! もつ鍋美味しかったですぅ!」

てへっ、と舌を出すリリス。俺の頭の中で、何かがブチッと千切れる音がした。

「ふざけんな!! なんで俺が異世界に来てまで、見ず知らずの女神のアイドルDVDとガチャ課金のツケを背負わなきゃなんねぇんだよ!! 90万だぞ!? 大学生のバイト何ヶ月分だと思ってんだ!!」

「ひぃぃぃ! ごめんなさいですぅぅ!」

リリスは涙目になりながら、分厚い耐衝撃ケースに入った自分のスマホ(エンジェルすまーとふぉん)を両手で構え、謎の防御姿勢をとった。

「落ち着いてくださいぃ! べ、別に健人さんが地球のお金で払うわけじゃないんです! この世界の通貨、金貨(1万円)や銀貨(1000円)をスマホの画面に投入すれば、返済できるシステムになってますからぁ!」

「……ってことは、毎月ちゃんと引き落とし日があるってことか?」

「はいっ! 毎月27日ですぅ!」

今日の日付を確認する。今日は……24日だ。

あと3日しかない。

「おい、もし払えなかったらどうなるんだよ」

「えっと……カードに付与されたルチアナ先輩の『強制徴収魔法』が発動して……健人さんの所持金、服、武器、靴、下着に至るまで全てが強制的に換金されて……すっぽんぽんで荒野に放り出されますぅ……」

「悪徳ヤミ金業者か!!!」

大草原のど真ん中で、俺の絶叫が虚しく響き渡った。

俺のチートスキルは、**『借金(リボ払い)』**だった。

しかも他人の。

100万円の限度額のうち、俺が自由に使える枠はたったの10万円。

この10万円の資本を元手に、地球のアイテムを召喚して異世界で売りさばき、期日までに最低支払い金額を稼がなければ、俺は全裸でモンスターの餌食になる。

「……上等だ。やってやろうじゃねぇか。72時間ワンオペを生き抜いた俺の『発注・在庫管理スキル』を舐めるなよ」

俺は深呼吸をして、社畜特有のドス黒い炎を瞳に宿した。

まずはこのふざけたクソ女神(先輩の方)に借金を返しきり、いつか天界に乗り込んで過払い金請求を叩きつけてやる。

「リリス。とりあえず、一番近い街か村はどこだ。商売するにも、まずは人がいる場所に行かないと話にならない」

「えっとぉ……女神のカンペ(マップアプリ)によると、この森を抜けた先に街があるみたいですぅ!」

「よし、行くぞ。道案内は任せた」

「はいっ! お任せくださいぃ!」

俺は右手に『世界樹の木の棒』を握りしめ、前を歩くピンクの芋ジャージ女神の背中を追って歩き出した。

この時はまだ、俺の残された『10万円の枠』が、一人の極貧令嬢の命を救うことになるなんて、思ってもみなかった。

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