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EP 7

国境警備隊の嫌がらせと、月兎のヤンデレ

「……ふふふ。完璧だ。これならいけるぞ」

夕暮れ時のポポロ村。

俺は召喚した電卓をパチパチと叩きながら、山のように積まれた『気絶した野菜たち』を前に、ゲスい笑みを浮かべていた。

肉厚でジューシーな『肉椎茸』。絶品の甘みを持つ『ハニーかぼちゃ』。そしてネギオが丹精込めて育てた最高級の『ポポロシガー(葉巻)』の束。

これをルナミス帝国や獣人王国の金持ちに売り捌けば、違約金3000万円の回避どころか、俺のクレカの借金すら一気に返済できるかもしれない。

「お疲れ様です、健人さん! はい、冷たいお水どうぞ!」

村長のキャルルが、手ぬぐいで汗を拭いながら木の実のジュースを差し出してくれる。

本当に気が利くし、可愛い。さっきまでマッハの速度で巨岩を粉砕していたバケモノとは思えない癒やしオーラだ。

「サンキュー、キャルル。おかげで最高のスタートダッシュが切れたよ」

「えへへ、皆さんが来てくれたおかげですぅ!」

和やかなスローライフ(※戦闘後)の空気が流れていた、その時だった。

ズンッ、ズンッ、ズンッ……!

村の入り口の方から、重い軍靴の足音が揃って響いてきた。

一つや二つではない。小隊規模(10人以上)の足音だ。

「……ん? 誰か来たみたいですわね」

銃のメンテをしていたダイヤが、鋭い視線を向ける。

土煙を上げて現れたのは、全身をオリーブドラブ色(国防色)の『魔導戦闘服』で包み、防弾チョッキと魔導ヘルメットで完全武装した兵士たちの集団だった。

手にはボルトアクション式の魔導ライフルが握られている。他国から『緑色の悪魔』と恐れられる、ルナミス帝国軍の国境警備隊だ。

「おいおい。ここは三国緩衝地帯(中立エリア)のはずだろ。帝国軍が何の用だ?」

ウィスターが不機嫌そうに立ち上がる。

部隊の中から、やたらとガタイの良い、葉巻を咥えた小隊長らしき男が前に出た。

「おうおう、寂れた廃村かと思いきや、随分と美味そうなモンを山ほど収穫してんじゃねぇか」

小隊長は下卑た笑いを浮かべ、俺たちの収穫物の山をジロジロと舐め回すように見た。

「俺はルナミス帝国軍、第7国境警備小隊長のガンツだ。お前ら、この土地が誰の庇護の下にあるか分かってんだろうな?」

「中立地帯だろ。どこの国にも属してないはずだ」

俺が冷静に答えると、ガンツ小隊長は鼻で笑った。

「建前上はな。だが、野盗や魔獣からこの辺りの治安を守ってやってんのは俺たち帝国軍だ。つまりここは実質、俺たちのシマ(領土)なんだよ。……分かるか? 治安維持費(税金)を納めろって言ってんだ」

典型的な悪徳軍人の『みかじめ料』要求だ。

「手持ちの金がねぇなら、その収穫物を全部置いていきな。俺たちも毎日クソ不味い『MRE型ハズレオムレツ』ばっかり食わされて胃袋が限界なんだよ! 極上の野菜と肉椎茸があれば、また『豚神屋』のラーメン抜きでも闘気が練れるってもんだ!」

ガンツ小隊長の言葉に、後ろの兵士たちが「そうだそうだ! もうプラスチックみたいなオムレツはご免だ!」とライフルを掲げて同調する。

俺は瞬時に脳内でコスト計算を行った。

こいつらと正面から戦うか?

いや、相手は近代魔導兵器で武装した正規軍だ。ダイヤの弾薬代、ウィスターの魔法の消耗、そして『帝国軍に歯向かった』という事実が後々ビジネスの障壁になるリスクを考えれば、ここは多少の賄賂を渡して穏便に済ませるのが経済学の基本……。

「……あの、お引き取りください」

俺が交渉に出ようとした矢先、スッと前に出たのは、村長のキャルルだった。

「ここはポポロ村です。私たちの汗と涙の結晶を、不当な理由で奪う権利は誰にもありません」

普段のぽわんとしたウサギ耳の少女からは想像もつかない、凛とした、そして底冷えのするような冷たい声だった。

「あァ? なんだテメェは。ウサギの獣人風情が、帝国の軍人に意見する気か?」

ガンツ小隊長が、威圧するようにキャルルを見下ろす。

「やめろ小隊長! 彼女は村長だ! 交渉なら俺が……」

俺が止めに入るより早く、ガンツ小隊長はキャルルの胸ぐらを乱暴に掴み上げた。

「キャルル!」

「健人様、撃ちますわよ!」

ダイヤが即座に魔導サブマシンガンを構えるが、ガンツの部下たちも一斉にライフルを俺たちに向けた。一触即発の事態だ。

「おいウサギ。俺たちを舐めんじゃねぇぞ。俺たちはルナミス帝国の誇る『爆速超回復理論』の訓練を生き抜いた精鋭だ。……野郎ども、気合いを入れろ!!」

ガンツ小隊長の号令に合わせ、ルナミス兵たちが一斉に『神聖な呪文』を絶叫した。

「「「ニンニクマシマシアブラカタメェェェェッ!!!」」」

ドゴォォォォン!!

謎の二郎系呪文と共に、兵士たちの全身から爆発的な『闘気』が立ち上った。過酷なカロリー摂取と回復魔法のループで鍛え上げられた、狂気の肉体強化だ。

「どうだウサギ! 俺たちのこの圧倒的な暴力が恐ろしいか! 大人しく村の権利書と野菜を全部置いて――」

ガンツ小隊長が勝ち誇ったように笑った、その瞬間だった。

スゥッ……。

夕暮れの空を覆っていた厚い雲が、風に流されてゆっくりと晴れていった。

そして、顔を出したのだ。

丸く、大きく、煌々と冷たい光を放つ**『満月』**が。

「……あ」

ネギオが、ポツリと漏らした。

「おい小僧、エルフ、お嬢ちゃん。……急いでキャルルから離れろ」

「え?」

月の光が、ガンツ小隊長に胸ぐらを掴まれているキャルルを照らした。

ピクッ、ピクッ。

彼女の頭に生えた真っ白なウサギ耳が、不自然なリズムで痙攣し始める。

「……いたい、です」

キャルルが、俯いたまま呟いた。

その声は、普段の優しい村長のトーンから、一段階、いや三段階くらい低く、ドス黒い何かが混じっていた。

「あ? 痛いか? ならさっさと泣いて土下座し――」

「痛いのは、私の村の人たちを、脅されたことです」

バシッ!!

キャルルが、自分の胸ぐらを掴んでいたガンツ小隊長の太い腕を、軽く『払った』。

たったそれだけの動作。

しかし。

「――っ!? ギャッ、アベェェェッ!?」

メキメキメキッ! というおぞましい骨の砕ける音と共に、ガンツ小隊長の右腕が、あり得ない方向(二重関節のような角度)にぐにゃりとへし折れた。

「なっ……!?」

「たいちょおおおっ!?」

部下たちが驚愕の声を上げる中、キャルルはゆっくりと顔を上げた。

「ひっ……!」

俺は思わず一歩後ずさった。

紅い瞳。いつもはキラキラと輝いていたその瞳孔が、今は完全に『虚無』に染まっていた。ハイライトが一切ない、純粋な狂気ヤンデレの瞳。

月兎族ムーンラビットの特異生態。

満月時における、リミッターの完全解除(ハイ状態)。

「私の、大切な村の人たちに。銃を向けましたね」

キャルルは、折れた腕を押さえてのたうち回るガンツ小隊長を見下ろし、極上の『笑顔』を浮かべた。

「ダメですよ。そんな悪い子には……お仕置きが必要ですね♡」

トンッ。

キャルルの足先(安全靴)が、軽く地面を叩く。

次の瞬間、ドンッ!!! という音速の壁を突破する衝撃波ソニックブームがポポロ村を吹き抜けた。

「え?」

俺の動体視力では、何が起きたか全く見えなかった。

ただ、キャルルの姿がフッと消えたかと思うと。

「グガァァァァッ!!」

「ゴベェッ!?」

「ひでぶっ!!」

ルナミス帝国の精鋭兵士10名が、まるで透明なダンプカーに次々と撥ねられたかのように、空高くポンポンと打ち上げられ、全身の骨を砕かれて地面に叩きつけられたのだ。

「ま、マッハ1の速度で……10人全員のアゴと腹に、ピンポイントで蹴り(乱れ鐘打ち)を入れやがりましたわ……!?」

ウェポンズマスターの動体視力を持つダイヤですら、顔を引きつらせて震えている。

「あははっ! あははははっ! 遅いです! 弱いです! もっと! もっと気合い入れてくださいよぉぉ!」

月光の下、残像を引きながら爆笑するヤンデレウサギ。

わずか3秒。それだけで、ルナミス帝国の一個小隊は完全に壊滅し、全員が瀕死の重傷を負って地面に転がっていた。

「あ、あぁぁ……ばけ、もの……」

唯一意識を残していたガンツ小隊長が、恐怖に顔を歪めて命乞いをする。

だが、地獄はここからだった。

「……あら? 皆さん、血を流して倒れちゃってますね」

ピタリ、と足を止めたキャルルは、血だらけの兵士たちを見て、ふにゃりと優しい(そして狂った)笑顔を浮かべた。

「痛かったですよね? 苦しいですよね? 大丈夫ですよ……私が、治してあげますから♡」

キャルルは自身のポケットから『月光薬』を取り出すと、自身の口からツーッと一筋の血を流しながら(体力消費の代償)、ガンツ小隊長たちにそれを振りかけた。

シュゥゥゥゥッ……!

瞬く間に、兵士たちの折れた骨が繋がり、傷口が完全に塞がっていく。

ルチアナ教会の回復魔法すら凌駕する、月兎族の究極の癒やし。

「あ、あれ……? 痛みが、消えた……?」

「俺たち、助かったのか……?」

兵士たちが希望の光を見たように立ち上がった、その直後。

「はい、全回復しましたね♡ ――じゃあ、第2ラウンド(お仕置き)行きますよぉっ!!」

「「「えっ」」」

ドッゴォォォォォン!!!(本日2回目のソニックブーム)

「ギャアアアアアアアッッッ!!!」

骨が砕ける音と、絶望の悲鳴が再び夜空に響き渡った。

「ヒィィッ……! や、やめてくれ! 殺して、いっそ殺してくれぇぇ!」

「痛いですか? じゃあ治してあげますね♡(シュゥゥゥ)……はい治りました! じゃあ次行きますよぉっ!!(ドゴォォン!)」

「ギャアアアアアアアッッ!!」

破壊。全回復。破壊。全回復。

それは文字通りの、無限コンティニュー。

痛覚と恐怖だけが蓄積していく、死ぬことすら許されない無間地獄だった。

「…………」

俺、ダイヤ、ウィスター、リリスの四人は、焚き火のそばで震えながら肩を寄せ合い、その『天国と地獄の反復横跳び』をただ黙って見守ることしかできなかった。

「……健人様。私、この村に骨を埋める覚悟ができましたわ。絶対に、村長(キャルル様)には逆らいませんの……」

「お、俺もだ。パチンコなんて二度とやらねぇ……」

違約金3000万円よりも恐ろしい存在が、ここポポロ村にいた。

満月の夜。俺たちは真の『武力』というものを、魂の底から理解させられたのだった。

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