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EP 8

天国と地獄の無限コンティニュー。そしてドM部隊の誕生

「……あ、あひィィッ! もう、もう許し……ッ!!」

「大丈夫ですよぉ♡ ほら、痛いの飛んでいけーっ!(シュゥゥゥ)」

「おおお……女神様ぁ……って、ギャアアアアアッッ!!(ドゴォォォン!)」

ポポロ村の広場に、一晩中、骨の砕ける絶叫と、慈愛に満ちた回復の光が瞬き続けていた。

ルナミス帝国が誇る第7国境警備小隊。近代兵器と『二郎系呪文ニンニクマシマシ』による闘気で完全武装した精鋭10名は、たった一人のウサギ耳の少女によって、文字通り『オモチャ』にされていた。

「……なぁ、健人。アレ、いつ終わるんだ?」

「俺に聞くな。……目を合わせたら、俺たちの骨も砕かれるぞ。絶対に焚き火から視線を外すな」

俺とウィスターは、ガタガタと震えながら温かいコーンスープをすすっていた。

隣では、ダイヤが恐怖のあまり【天魔竜聖剣】を抱きしめてガクガクと小刻みに揺れ、リリスは「キャルルさん、体力すごいですねぇ(モグモグ)」と一人だけ呑気にマシュマロを食べている。

「ハッ。言っただろ、アナステシアの農業は命がけだってな」

ネギオが呆れたように葉巻の煙を吐く。

月兎族ムーンラビットのハイ状態は、月が沈むまで終わらねぇ。あのウサギの嬢ちゃん、村への愛が重すぎるんだよ。自分の血を吐いてでも、あいつらを治して、またボコボコにしてやがる」

ネギオの言う通りだった。

キャルルの口元からは、自身の生命力を削って『月光薬』を精製し続けている代償として、ツーッと一筋の赤い血が流れている。

だが、満月の狂気に当てられた彼女の笑顔は、血まみれであるほどに底知れぬ凄み(ヤンデレ度)を増していた。

「ひぐっ、あぁぁ……死ぬぅ……!」

「ダメですよ? 私の大切な村を脅かしたんですから、朝までたっぷり反省してもらわないと♡(ドガァッ!)」

破壊と再生。恐怖と究極の癒やし。

人間の精神が耐えられる限界をとうに超えた、脳の配線を焼き切る拷問。

そして、ついにその時が訪れた。

東の空が白み始め、分厚い雲がゆっくりと『満月』を隠していく。

夜明けだ。

「……あ、れ?」

月の光が遮られた瞬間。

ピタリ、とキャルルの足が止まった。

虚無に染まっていた紅い瞳に、パチッとハイライト(理性の光)が戻る。

「はぁっ、はぁっ……」

キャルルは急に糸が切れたように膝から崩れ落ち、荒い息を吐き始めた。

口元の血を手の甲で拭い、自分の足元に転がる『ボロ雑巾のようになった(しかし無傷の)ルナミス兵たち』を見て、ウサギ耳をパニック気味にバタバタと動かした。

「わ、私……また、やっちゃいましたか……!? ご、ごめんなさぁぁい! 私、感情が高ぶると記憶が……っ!」

完全にいつもの、優しくてちょっとドジな村長(OL)のキャルルに戻っていた。

「……お、終わったのか?」

俺は恐る恐る焚き火の陰から立ち上がった。

ダイヤとウィスターも、へっぴり腰で俺の後ろについてくる。

「健人さん! ど、どうしましょう! 帝国軍の兵隊さんたちを、こんなにボロボロに(精神的に)……! 国際問題になっちゃいますぅ!」

キャルルが涙目で俺にすがりついてくる。

確かにマズい。

ルナミス帝国の正規軍に手を出したとなれば、違約金どころか国家反逆罪で指名手配だ。

証拠隠滅のために、ここにいる全員を森の奥に埋めるか……? と、俺の社畜ブラック脳が最悪の危機管理マニュアルを構築し始めた、その時だった。

「……う、ううっ……」

地面に転がっていたガンツ小隊長が、ピクッと指を動かし、ゆっくりと身を起こした。

「ヒッ!?」

「起きましたわ! 健人様、迎撃を!」

ダイヤがサブマシンガンを構えようとするが、俺は手でそれを制した。

ガンツ小隊長の様子が、明らかにおかしいのだ。

小隊長はフラフラと立ち上がると、焦点の定まらない目でキャルルを見つめた。

その屈強な肉体は恐怖に震えている……のではない。

なぜか、顔を真っ赤に紅潮させ、荒い息を吐きながら、瞳をキラキラと輝かせていたのだ。

「……あぁ」

ガンツ小隊長が、恍惚とした表情で天を仰いだ。

「なんと……なんと恐ろしく、そして、温かい光だったことか……!」

「……は?」

俺の口から、素っ頓狂な声が漏れた。

「俺たちは今まで、帝国軍の過酷な『豚神屋(二郎系)』と回復魔法のループ訓練こそが至高だと思っていた! だが違った! あの圧倒的な暴力(マッハの蹴り)で全身の骨を砕かれる激痛の後に、女神のような笑顔で注がれる慈愛の癒やし(月光薬)!!」

ガンツ小隊長は、両手で自分の顔を覆い、男泣きに泣き始めた。

「俺の、俺たちのちっぽけなプライドなんて、あの足技の前に木っ端微塵に砕け散った! そして砕かれた俺の魂を、キャルル様は拾い上げ、優しく包み込んでくれたんだァァァッ!!」

「そうだ! 俺たちは生まれ変わったんだ!」

「あのヤキに比べれば、帝国の訓練なんてママゴトだぜ!」

他の部下たちも次々と立ち上がり、ガンツ小隊長と同じように顔を紅潮させ、涙を流しながら熱狂的な声を上げ始めた。

俺たち四人は、ドン引きを超えて真顔になっていた。

完全に脳の配線(と性癖)をぶっ壊され、究極の『ドM部隊』が誕生した瞬間だった。

「「「キャルル姉御ォォォッ!!!」」」

ザッ!!

ガンツ小隊長をはじめとする10名の兵士たちが、一糸乱れぬ動きでキャルルの前に整列し、見事なまでの『ジャンピング土下座』をキメた。

「昨晩のご熱い指導、感銘を受けました!! 俺たち第7国境警備小隊、今日から姉御の親衛隊として、一生ついていきます!!」

「だから! お願いします! もう一度、もう一度俺たちを蹴って、そして優しく『痛いの飛んでいけ』ってしてくださいィィィッ!!」

「ひぃぃぃぃっ!? な、なんか気持ち悪いですぅぅ!! ごめんなさぁぁい!!」

キャルルは顔を真っ赤にしてパニックになり、猛スピード(マッハではないが十分速い)で逃げ出してしまった。

「ああっ! 姉御が逃げちまった! 追いかけろ野郎ども!」

「「「オゥッ!!」」」

ドM兵士たちが、尻尾を振る犬のようにキャルルを追いかけてポポロ村の奥へと消えていく。

「…………」

「…………」

静まり返った広場で、俺とダイヤ、ウィスターは無言で顔を見合わせた。

「……健人様。ルナミス帝国軍って、あんな変態の集まりでしたの?」

「……いや。キャルルのヤンデレパワーが、帝国の軍事教育を凌駕しただけだ。恐ろしい女だぜ、あの村長」

呆然とする俺たちの足元に、ガンツ小隊長が落としていった『帝国軍の通行証バッジ』や『軍用リュック』が転がっているのを見て、俺の頭の中に、パズルのピースがカチリとハマる音がした。

「……待てよ?」

俺は落ちていたバッジを拾い上げ、口元にゲスい笑みを浮かべた。

「おい、ウィスター、ダイヤ。さっきあいつら、『俺たちは今日から姉御の親衛隊だ』って言ってたよな?」

「あぁ? 言ってたが、それがどうした」

「このポポロ村で収穫した、極上の『肉椎茸』や『ハニーかぼちゃ』、そして『ポポロシガー』。これを大都市で高く売り捌くには、各国の国境の関所(税関)を通らなきゃならない。普通ならそこで莫大な関税を取られるが……」

俺の意図に気づいたのか、ダイヤの瞳がハッと見開かれた。

「まさか健人様……あの『帝国軍の兵士たち』を、運び屋(流通ルート)として使う気ですの!?」

「ご名答」

俺は落ちていた軍用リュックを指差した。

「現役のルナミス帝国軍・国境警備小隊が護衛(運搬)している荷物を、怪しんで検める税関職員はいない。つまり、関税フリーの最強の『正規流通ルート』が、たった今完成したってことだ!」

「ギャハハハ! 悪党だぜテメェ! 国家の軍隊を、タダ働きの運び屋にする気かよ!」

ウィスターが腹を抱えて笑い出す。

「タダ働きじゃねぇよ。報酬は、キャルルに頼んで『月に一度、ご褒美のハイキックと回復魔法』を与えてもらうよう交渉する。あいつらにとっちゃ、金貨100枚にも勝る極上の報酬だろ」

違約金3000万円。

その絶望的な数字を跳ね返すための、最強の『特産品』と、最強の『物流ネットワーク』が、完全にイカれた形で手に入った。

「さぁ、泣いてる暇はねぇぞお前ら! キャルルからあの変態どもを引き剥がして、さっそく荷造りをさせるんだ! 目指すはルナミス帝国の経済の頂点、『ゴルド商会』だ!!」

俺の社畜ブラック魂が、完全に資本家のそれへと進化した瞬間だった。

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