EP 6
収穫の死闘! 自我を持つ狂気の野菜たち
「……マジかよ。一晩でここまで育つのか」
翌朝。俺たちはテントから這い出し、目の前に広がる光景に息を呑んだ。
昨日、ダイヤが耕した畝に撒いた種。それが今、青々とした葉を広げ、畑一面を埋め尽くす見事な農作物へと成長していたのだ。
ネギオの知恵と現代の『化成肥料』のハイブリッド黄金肥料。そこにウィスターが「めんどくせぇ」とボヤきながらかけた『豊穣の魔法(木属性)』が合わさった結果、常識外れのスピード栽培が実現したのである。
「す、すごいですわ健人様! これならすぐに出荷して、違約金どころか莫大な利益を生み出せますの!」
「あぁ! 見ろよこの丸々と太った大根! そして青々と茂った人参の葉っぱ! 俺たちの大金脈だ!」
俺は狂喜乱舞し、一番近くにあった人参の葉を両手で掴んだ。
「へへっ、どいつもこいつも立派に育ちやがって。さぁ、収穫の第一号だ! うおーっ!!」
俺が力任せに引っこ抜いた、その瞬間だった。
『ギシャァァァァァァァァァッッッ!!!』
「うおっ!?」
耳をつんざくような、赤ん坊の泣き声と魔獣の咆哮を混ぜたような悲鳴が響き渡った。
俺が手に持っていた『人参』の根っこ部分が、突如として二股に分かれ、人間の足のような形状に変化したのだ。
そして、人参は俺の手を強引に振り解くと、そのまま二本足でスタコラサッサと猛ダッシュで逃げ出した。
「なっ!? 人参が走った!? なんだアレ!」
「だから昨日、警告したじゃねぇか。そいつは『人参マンドラ』。引っこ抜いた瞬間、悲鳴を上げてダッシュで逃走を図るクソウザい根菜だ!」
ネギオが葉巻を吹かしながら笑う。
「逃がしませんわ!!」
俺がポカンとしている間に、ダイヤが動いた。
彼女は背中から魔導サブマシンガンを引き抜き、逃げ惑う人参マンドラの足元(根っこの先端)を正確に射撃した。
タタタタッ!
『ギョベッ!?』
人参マンドラがスッ転び、土煙を上げてピクピクと痙攣する。
「ふぅ……。安心してください健人様、食用部分は傷つけておりませんわ。完璧な『収穫』ですの」
銃口の煙を吹き飛ばしながらドヤ顔を決めるS級令嬢。
「いや、農業の絵面じゃねぇだろ! なんで野菜相手にアサルトライフルぶっ放してんだよ!」
「健人様! 次のが来ますわ! 伏せて!!」
「えっ?」
俺がダイヤの声に反応して咄嗟に身を屈めた頭上を、凄まじいスピードで『巨大なキャベツ』が飛んでいった。
『オイオイオイ、聞いたかよ! 隣の村の村長、実はスライムと不倫してるらしいぜ! ギャハハハ!』
「……喋った!? キャルル、今のキャベツ喋ったぞ!?」
「はいっ! あれは『ネタキャベツ』ですね! 収穫しようとすると、ルナミス新聞の三面記事ばりのゴシップや冗談を喋って命乞いをしてくるんですぅ!」
キャルルがウサギ耳をピコピコと揺らしながら解説する。
「喋るネタが面白いほど甘みが増すので、もっと面白いこと言わせましょう!」
「いや、どうやって!?」
『へへっ、俺を食おうってのか!? ならとっておきのネタを――』
「遅ぇよ」
ウィスターが気怠げに指を鳴らす。
瞬間、空を飛んでいたネタキャベツの周囲の空気が凍りつき、ズンッ! と地面に落下した。
「鮮度を保つための『瞬間冷凍』だ。喋る前に凍らせりゃ静かになるだろ」
「お前は本当に魔法の使い方がエグいな……」
俺が額の汗を拭っていると、今度は足元の畑から、ボコボコと不気味な震動が伝わってきた。
「む? これは……『ダイズラ豆』ですわね。畑の肉と呼ばれる高級大豆ですの!」
ダイヤがクワを構えて警戒する。
「おっ、大豆か! 醤油の原料にもなるし、高く売れるぞ! えいっ!」
俺が無警戒にダイズラ豆のサヤに手を伸ばした、その瞬間。
ブォォォォォン……!
ダイズラ豆から、目に見えない謎の『魔法波動』が放たれた。
その波動をモロに浴びた俺の身体に、異変が起きる。
「……あれ? ズボンが……」
俺のジーパンのベルトが、なぜか勝手にカチャッと外れ。
ズルンッ、とズボンが足首まで一気にずり落ちた。
「なっ!? ちょっ、おま……っ!?」
「キャァァァァッ!? け、健人様!? 白昼堂々、なんて破廉恥な!」
ダイヤが顔を真っ赤にして両手で目を覆う(指の隙間からバッチリ見ている)。
「あはは! 健人さんのパンツ、ウサギさん柄で可愛いですぅ!」
リリスが指を差してケラケラと笑う。殺す。
「このクソ豆!! なに人のズボン下ろしてんだ!!」
俺は慌ててズボンを引き上げながら絶叫した。
「ギャハハハハ!! そいつは『ダイズラ豆』! 収穫の瞬間に、相手のズボンをずり落としたり、カツラをずらしたりする『羞恥心攻撃』を放つ極悪な豆だ!」
ネギオが腹を抱えて笑い転げている。
「笑い事じゃねぇ! ダイヤ、こいつの波動はどうやって防ぐんだ!」
「も、無理ですわ! 闘気で防ごうとしても、なぜかスルーして服の留め具だけを破壊してきますの!」
「チッ、どいつもこいつも世話が焼けるぜ」
ウィスターが面倒くさそうに杖を掲げる。
「『絶対魔力障壁』!」
ウィスターの全属性魔法の応用で、俺たちの周囲に透明なドーム状の防壁が展開された。
ダイズラ豆が放つ羞恥波動がシールドにぶつかり、ピキピキと音を立てて相殺されていく。
「よし、今だ! 波動が防がれている間に刈り取れ!」
「承知いたしましたわ! 『紅蓮の草刈り(クリムゾン・リーパー)』!!」
ダイヤがクワを大鎌のように振り回し、ダイズラ豆の束を一網打尽に刈り取っていく。
「ふぅ……助かったぜウィスター」
「フン。俺の最高峰の防御魔法を、ズボンを守るために使わされるとは思わなかったぜ」
だが、休む暇はない。
畑の奥から、今度はオレンジ色に輝く巨大な『かぼちゃ』が、ツルを器用に動かしてこちらに這い寄ってきた。
『やぁ、そこの美しいお嬢さんたち……。俺という甘い蜜を、味わってみないかい?』
イケボ(低音の渋い声)だった。
「ひっ!? かぼちゃが口説いてきましたの!?」
ダイヤがドン引きして後ずさる。
「あ、それは『ハニーかぼちゃ』ですね! 強い甘みを持つ絶品野菜ですが、収穫に来た女性を甘い言葉で口説こうとする性質があるんですぅ!」
キャルルが解説する。
『さぁ、俺の胸に飛び込んでおいで……君の瞳に乾杯……』
「……キモいですわ」
ドグシャァァァァッ!!!
ダイヤが容赦なく、魔導式拳銃の銃床でハニーかぼちゃの脳天をカチ割った。
甘い言葉を囁いていたかぼちゃは、一撃で沈黙し、ただの美味しい食材へと成り下がった。
「だ、ダイヤさん……もうちょっと手心を……」
「ダメですの。あんなの、食材に対する冒涜ですわ」
S級令嬢の倫理観はよく分からない。
「……はぁ、はぁっ……」
開始からわずか30分。
俺は肩で息をしながら、畑に転がった大量の『気絶した野菜たち』を見渡した。
弾薬の匂い。魔法の残滓。
そして、泥と汗にまみれた俺たち。
「……農業って、こんなに命がけだったか?」
「アナステシアの豊穣の大地を舐めるなよ、小僧。だが……」
ネギオが、収穫された野菜の山を見て、満足げに葉巻を咥えた。
「質は最高だ。魔力脈のコントロールも、肥料の効き目も完璧だ。これなら、どこの商会に出しても一級品として通るぜ」
「……やった。やったぞお前ら!」
俺はズボンのベルトを固く締め直し、ガッツポーズをした。
第一陣の収穫、無事(?)完了。
だが、この豊作の匂いを嗅ぎつけて、村の防衛線を脅かす『厄介な連中』が近づいていることに、俺たちはまだ気づいていなかった。




