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EP 3

違約金3000万円の絶望と、笑顔のヤンデレ村長

「金貨……さんぜん、まい……?」

荒れ果てたポポロ村の土を両手で強く握りしめ、俺はうわ言のように呟いた。

ルチアナのクソ女神が作った90万円(金貨90枚)の借金すら、死蟲王の眷属をカニ剝きしてようやく利息分を返せたレベルだというのに。

それが一瞬にして、3000万円。

逃げた瞬間に、国家レベルの借金取りが押し寄せてくる。マグローザ漁船どころか、シーラン国の海底プラントで一生塩漬けになっても返せない額だ。

「……終わった。俺の異世界スローライフ、始まる前に自己破産でフィニッシュだ……」

「健人様! しっかりしてくださいませ! こんな詐欺契約、ギルドに訴え出れば無効になりますわ!」

「甘ぇよ令嬢。ギルドがこんな細工に気づかないわけがねぇ。最初から『生贄』をハメるためのクエストだったんだよ、こりゃあ」

ウィスターが忌々しそうに葉巻を地面に捨て、靴で踏み躙る。

俺たちの絶望のどん底を前に、村長であるウサギ耳の美少女――キャルルは、オロオロと両手を振って弁明を始めた。

「ち、違うんです! 私がこんな意地悪な契約書を作ったわけじゃないんですぅ!」

「じゃあ誰が書いたんだよ、このブラック企業の就業規則みてぇなトラップは!」

「それは……この村がルナミス、レオンハート、アバロンの『三国緩衝地帯』だからです。過去に、開拓支援金だけ前払いで持ち逃げする悪徳冒険者が相次いだせいで……三国のお偉いさんたちが激怒して、『次から逃げた奴には三カ国合同で国家反逆罪レベルの違約金を課す』って決めちゃったんですぅ!」

なるほど。クソみたいな行政の縦割りと、過去の不良債権のツケを、俺たち新参者が全部被らされたわけか。

「……じゃあ、俺たちが今すぐここから逃げ出したら?」

「ルナミス帝国の『緑色の悪魔(魔導部隊)』、獣人王国の『黒豹暗殺部隊』、そして魔皇国の『S級魔獣召喚士』が、世界の果てまで皆さんを追いかけて、借金を回収するまでミンチにし続けると思います……」

「完全にヤクザの取り立てじゃねぇか!!」

俺は地面をバンバンと叩いた。

横を見ると、ダイヤは「わ、私の公爵家すら消し飛びますわ……」と青ざめ、ウィスターは「よし、俺は今からエルフの森に帰る。長老に土下座して引きこもる」と現実逃避を始めている。

「お願いです、逃げないでください! 私も全力でサポートしますから!」

キャルルが俺の両手をガシッと握り込んできた。

柔らかく、温かい手だ。だが、その可愛いウサギ耳がピクッと動き、彼女の紅い瞳の奥に、スゥッと温度のない光が宿った。

「……もし、どうしても逃げるって言うなら。私、皆さんの『両脚の骨』を粉々にへし折ってから、私の回復魔法で完全に治して……また折って、治してを繰り返して、『物理的に村から出られない身体』にするしかありませんね♡ ふふっ、大丈夫ですよ。痛いのは一瞬ですから♡」

「「「…………ヒッ」」」

俺、ダイヤ、ウィスターの三人は、顔を見合わせて同時に息を呑んだ。

可愛い顔をして、吐いている言葉のサイコパス度が高すぎる。この女、笑顔の裏に特大のヤンデレ(物理)を飼っていやがる!

「わ、わかった! 逃げない! 逃げないから脚の骨はそのままにしてくれ!」

俺は全力で首を縦に振った。

「えへへ、良かったです! これから一緒に頑張りましょうね!」

キャルルはパッと表情を明るくし、俺の手をブンブンと振った。情緒の振れ幅がバグっている。

「けっ。結局は逃げられねぇ腰抜けの集まりか。まぁいい、お前らみたいなひ弱な都会モンに、この荒れ地の開拓ができるとは思えねぇがな」

傍らでネギを担いだ樹人――ネギオが、麦わら帽子を深く被り直して嘲笑う。

「農業を舐めるなよ。土の酸性度、肥料の配合、水路の確保。ただクワを振れば作物が育つわけじゃねぇ。お前らみたいな素人が何日かかったところで、ペンペン草一本生やせやしねぇよ」

ネギオの言葉は、的を射ていた。

農業は経験と知識の世界だ。素人が数日で成果を出せるほど甘くない。

もし期日(契約の査定日)までに村の復興ができなければ、やはり違約金3000万の死刑宣告が待っている。

「……おい、ネギのオッサン。俺を誰だと思ってる」

俺は立ち上がり、ポケットのスマホを取り出した。

「ただの借金まみれの小僧だろ?」

「違う。俺は、現代の経済学とコンビニの在庫管理を極めた、資本主義の申し子だ」

俺は『神様Pay』のアプリを開いた。

先ほど前金で手に入れた【金貨10枚(10万円分)】を、俺はすべて『チャージ』ではなく『仕入れ(召喚枠)』として使う決意を固めていた。借金返済より、まずは目の前の違約金リスクを回避するための先行投資だ。

「農業に知識が必要なら、知識を買う。道具が必要なら、最強の道具を買う。ダイヤ、ウィスター! お前らのチートスキルと、俺の『10万円の枠』を組み合わせれば、異世界の農業なんて数日でひっくり返せる!」

「け、健人様……その目は。また何か、とんでもない悪知恵を思いつきましたのね?」

ダイヤがゴクリと喉を鳴らす。

「あぁ。ネギオ、見てろよ。日本のホームセンターの力を思い知らせてやる!」

俺はスマホの検索窓に、力強く文字を打ち込んだ。

・『初心者向け 家庭菜園パーフェクトマニュアル(図解入り)』:約1,500円

・『即効性 化成肥料(大容量20kg)』:約3,000円

・『土壌酸度計デジタル』:約2,500円

・『軽量・高耐久 ステンレス製クワ』×2:約4,000円

「召喚(購入)!!」

ポンッ、ポンッ、ポンッ! と、荒れた大地の上に、現代日本の農業グッズが次々と出現した。

「な、なんだぁ!? その光る小箱と、見慣れねぇ粉の入った袋は……!」

ネギオが葉巻を落としそうになりながら目を剥く。

「フフフ……。ダイヤ、お前の【ウェポンズマスター】は、クワや農具でも最適解を引き出せるはずだよな?」

「もちろんですわ! 武器も農具も、使ってナンボの『道具』ですの! 私に持たせれば、この銀色のクワは聖剣にも勝る働きをしてみせますわ!」

ダイヤがステンレス製のクワを手に取り、美しく構える。

「ウィスター、お前は全属性魔法の天才だ。水路を作るための『水』と、土を柔らかくするための『土魔法』、そして魔獣を追い払う『火魔法』……お前一人いれば、重機トラクターすらいらねぇ!」

「おいおい、俺の神聖なる魔法を泥いじりに使う気か? ……まぁ、違約金で首を括るよりはマシか。サケスキーの追加があれば考えてやらんこともない」

俺は不敵に笑い、キャルルとネギオを振り返った。

「さぁ、見てろよ。これが、限界社畜と極貧令嬢とクズエルフが巻き起こす、異世界DASH村(限界突破のスピード開拓)だ!!」

俺たちの、違約金3000万円を懸けた命がけの農業ライフが、今、幕を開けた。

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