EP 12
リボ払いの真の恐怖と、クソ女神(先輩)の最速推し活
冒険者ギルドの重厚な扉を蹴り開け、俺は一直線に受付カウンターへと向かった。
「お、おい見ろよ。さっき『死甲虫型』の討伐を受けた無謀な新米パーティーだぜ」
「もう逃げ帰ってきたのか? まぁ、命があっただけでも――」
周囲の荒くれ者たちがヒソヒソと嘲笑う中、俺はドサァッ! とカウンターの上に麻袋を叩きつけた。
中から転がり出たのは、鈍い光を放つ巨大な魔石と、ダイヤが『紅蓮の甲殻剥き』で綺麗に切り開いた漆黒の重装甲パーツだ。
「なっ……!?」
「バカな、傷一つない完璧な剥ぎ取り……!? あの超重装甲をどうやって……!」
ギルドの空気が一瞬で凍りつき、嘲笑が驚愕へと変わる。
受付嬢は目を丸くし、口をパクパクとさせていた。
「討伐完了だ。部位破壊なしの極上品。即日査定、現金払いで頼む!」
「は、はいぃぃっ! ただいまギルドマスターを呼んでまいりますっ!」
数分後。
裏から出てきた眼帯の渋いギルドマスターによって、俺たちの戦利品は最高ランクの評価を受けた。
装甲の傷が少ない(カニ剝きハサミで継ぎ目だけを切ったため)ことが高く評価されたらしい。スマホでブチ抜いた腹側の装甲は「魔獣同士の争いの名残だろう」と勝手に解釈してくれた。
「討伐報酬と素材の買い取りで……金貨5枚と、銀貨3枚だ。受け取んな、新米」
チャリン、と革袋に入れられた硬貨がカウンターに置かれる。
金貨1枚が約1万円。つまり、総額5万3000円。
俺の、いや俺たち四人の初めての稼ぎだ。
「よっしゃあああっ!」
俺は思わずガッツポーズをした。
「健人、約束のモンは忘れてねぇだろうな?」
背後でウィスターが、長い指をワキワキと動かしながら催促してくる。
「分かってるよ。ほら、前借りの銀貨1枚(約1000円)だ。これでサケスキーでも何でも買ってこい。タバコは後で召喚してやる」
「ヒャッハー! やっぱ労働の後の酒は最高だぜ!」
ウィスターは銀貨をひったくると、真っ昼間から併設された酒場へ消えていった。
「ダイヤ。あんたには銀貨2枚だ。これで弾薬(魔石)の補充なり、武器のメンテ代なりに充ててくれ」
「……よろしいんですの?」
ダイヤは信じられないものを見るような目で銀貨を受け取った。
「私の取り分なんて、カップ麺とタラバガニで十分に頂いていますわよ? なのに現金まで……健人様、あなたもしかして神様ですの?」
「いや俺はただの雇用主だ。装備のメンテを怠るボディーガードは役に立たないからな」
「健人さぁん、私は? 私はどうなりますかぁ?」
リリスが目をキラキラさせて袖を引っ張ってくる。
「お前はさっきカニ食っただろ。それ以上の対価はない」
「ひどいですぅ! 資本主義の奴隷ですぅ!」
とりあえずパーティーの不満を金と食い物で抑え込み、俺はギルドの隅のベンチに腰を下ろした。
ここからが本番だ。
俺の真の敵、ルチアナの作った『90万円の借金』との戦いである。
時刻は午後1時。明日の27日(引き落とし日)まで、まだ余裕がある。
俺はジーパンのポケットからスマホを取り出し、『神様Pay』のアプリを起動した。
「ええっと、『お支払い(チャージ)』のボタンは……これか」
画面に表示された『硬貨をスキャンしてください』という枠に、俺は手元の金貨3枚(3万円分)をかざした。
シュゥゥゥン……!
という不思議な電子音と共に、俺の手のひらにあった金貨3枚が光の粒子となって消滅し、スマホの画面に吸い込まれていった。
「おお、すげぇ。本当にデジタル送金された」
俺は安堵の息を吐き出し、更新された利用明細の画面を見た。
――――――――――――――――
【お支払い完了のお知らせ】
ご入金金額:30,000円
内訳:
・手数料および利息分:13,500円
・元金充当分:16,500円
現在のご利用額:883,500円
ご利用可能額:116,500円(※前回の残高を含む)
――――――――――――――――
「…………は?」
俺の思考が、再び停止した。
3万円払ったのに、借金(元金)が1万6500円しか減っていない。
「り、利息……1万3500円……?」
俺は震える指で『契約詳細』のタブを開いた。
そこに小さな文字で書かれていたのは、現代の日本の消費者金融も真っ青の、極悪非道な金利設定だった。
「年利……18%……だと……っ!?」
これが『リボ払い』の真の恐怖。
毎月一定額を払えばいいという甘い罠の裏で、支払いの半分近くが『利息(神への上納金)』として消えていくのだ。
元金が90万もある状態では、最低支払い金額(2万円)をチマチマ払っていても、永遠に借金は減らない。
「ふざけんな……! あのババア、自分はガチャ引きまくってるくせに、俺からは法定金利ギリギリで搾り取る気か!!」
だが、怒っても始まらない。
とりあえず、明日の『強制徴収(全裸放り出し)』の危機は回避した。
利用可能額も10万円の大台を回復し、これでまた商売の元手が……。
ピロン♪
その時だった。
スマホの画面上部に、軽快なポップアップ通知が表示された。
『【ルチアナ様のご利用】神様Payが利用されました。』
「……え?」
嫌な予感が全身を駆け巡る中、俺は震える指でその通知をタップした。
更新された利用明細の一番上に、たった今追加されたばかりの履歴が表示される。
・【即時決済】朝倉月人 10周年アニバーサリーライブ・最前列プレミアムチケット:115,000円
――――――――――――――――
現在のご利用額:998,500円
ご利用可能額:1,500円
――――――――――――――――
「…………」
俺は、スマホを持ったまま、ゆっくりと天を仰いだ。
理解した。
俺が死に物狂いで巨大な虫と戦い、借金を返して『枠(利用可能額)』を空けた瞬間。
天界でコタツに入ってスマホを弄っていたクソ女神が、その空いた枠を秒速で使って、推しのアイドルのプレミアムチケットを決済しやがったのだ。
枠が空いた端から、使われる。
穴の空いたバケツで水を汲むような、終わりのない無間地獄。
「け、健人様? どうなさいましたの、魂が抜けたような顔をして……」
ダイヤが心配そうに覗き込んでくる。
「アッハハハハハハハハ!!!」
俺は突然、乾いた笑い声を上げた。
「……健人さん、壊れちゃいましたぁ……」
リリスが怯えたように俺から距離を取る。
「……あぁ、そうか。そういうシステムか。なら、もう『真面目に返済する』なんてバカなマネは辞めだ」
俺は立ち上がり、酒場から戻ってきたウィスターの胸ぐらを掴んだ。
「おわっ!? なんだよ急に!」
「ウィスター、お前、この世界で一番金を持ってる奴を知ってるか。ゴロツキの財布から巻き上げるような小銭じゃねぇ。もっとデカい、国家予算レベルの金が動く場所だ」
俺の目に宿った異常な光(ヤミ金業者顔負けの狂気)を見て、ウィスターはニヤリと笑った。
「……ヘッ。ここルナミス帝国で一番金が動く場所っつったら、決まってんだろ。『ゴルド商会』だ。あそこの会長、蛇目族のオロチに食い込めば、金貨なんて湯水のように溢れてるぜ」
「上等だ。そのオロチの金、根こそぎ奪ってやる」
俺は利用可能額【1,500円】のスマホを固く握りしめた。
神が俺を搾取するなら、俺はこの世界の経済システム(資本主義)をハックして、神の想定を上回る大富豪になってやる。
そしていつか、天界のコタツ部屋に乗り込んで、あのクソ女神の芋ジャージを剥ぎ取ってやる。
「行くぞお前ら! 次は魔獣狩りじゃねぇ、ビジネスの時間だ!!」
社畜の復讐戦(第一章)が終わり。
異世界を股にかけた、狂気の経済戦争(第二章)が幕を開けようとしていた。
【第一章 完】




