破壊②
「そういえば…」
明日は祭りだ。
街はどこか浮き足立っていて、普段より笑っている人が多い気がする。
……まあ、俺には関係ない。
彼女なんていないし、思い出といえば、小さい頃に両親に連れられて、
境内の露店で何か食べた記憶くらい。
あとはテレビやネットで見た情景と混ざってしまって、
――泣きながら背を向けて走っていく女の子の姿だけが、
妙に鮮明に残っていた。
……誰だったっけ、あれ。
今朝耳にした若い男の声にも、どこか覚えがあった気がして、
何となく時間を持て余した俺は、
目的もなく車を走らせて、その全てを思い出そうとしていた。
「……え?」
いつまでも思い出せない気持ちのまま、
適当に車を走らせていると、ふと、思い出が目に飛び込んできた。
真っ白なロングワンピースに、よく似合う鍔付きの帽子。
背が高く、スラリとした体つきの女の子が、
まるで昔見たドラマのワンシーンのように、日差しの中を歩いていた。
その姿を確認したくて、慌てて車を寄せて窓を下ろす。
「……みこちゃん?」
その瞬間、思い出の中から抜け出してきたような彼女が、
目を丸くして笑い返してくれた。
「なに言ってんの?
この歳で“ちゃん付け”って。先生、頭おかしくなった?」
「……いや、ごめん。美琴さん。……俺が悪かった。本当に。
あの時は……違う。違うな。全部、俺が悪かった。……ごめん。」
言い訳するつもりなんてなかったのに、
口を開けば何かしら言い訳が出てきそうで、
拓海は、ただ何度も深く頭を下げた。
そんな二人をみているのか、
それとも軽トラが邪魔なのか、何台もの車が横を追い抜いていく。
「たっくん。……もういいって。ちょっと驚いただけでしょ?
あんなこと聞けば驚くの、知ってたし。許すから、顔あげて。」
やっと美琴は許してくれたらしく、
肩苦しかった言葉が、少し前まで聞いていた言葉に戻っていく。
「……なんでも言ってくれ。何でもする。なんだっていい。」
「そうねぇ。じゃあ、車、乗せてよ。暑くてたまんない。
面積増やせば涼しくなるかと思って、この格好にしたけど逆効果。
はぁ。もう暑すぎよ。早くドアを開けて。」
「えっ……もう開いてるよ?」
「アハハ、そっか。そうだっけ。ありがと。……ふぅ、涼しい。」
助手席に乗り込んだ彼女を見た瞬間、胸が満たされた。
横にいる――ただそれだけで、心が落ち着いていく。
「美琴。今日はどこ行くんだ?」「叔父さんの家。知ってるでしょ?」
「……ああ、もちろん。」
その名前を聞くだけで、どうしても顔が曇っていく。
「あの叔父さん、エロいのよね。はぁ、行きたくないなぁ。」
「じゃあ、行かなくても――」
この時に、ただの知り合い程度の付き合いしか無い拓海から、
彼女に掛ける言葉は、この程度しか出来なかった。
「ダメ。約束だから。向かって!」
そんな拓海からの言葉に、
彼女はとても真剣で、何処か切羽詰まった顔をしていた。
そんな彼女の服装は、3年前にも見たような格好だったが、
体つきが大人びてしまい、胸も、腰回りも、ずっと大きくなって、
そのせいで服が少し窮屈そうに見えて、つい目がいってしまう。
「…」「また。中を見たいの?」
その視線に気づいた彼女が、嬉しそうに笑って答えた。
そんな彼女の姿を見る度に、
昔は顔を真赤にして、恥ずかしそうに着ていた美琴を重ねてしまう。
しかし今回は、インナーのキャミソールも外したようで、
木陰を歩いていたときに、色々と透けていた。
「違う。美琴……さっき、全部見えてたぞ……」
「下着でしょ?別にいいじゃん。水着と変わらないし。」
「アレが水着って……」
「ふふ。今度、海でも……遠いよね。プール……ん~。プール…」
そのまま、彼女はいたずらっぽく笑って、こちらを見た。
「水着は……下着と同じでティーバック……かもよ?」「……」
「あっ…日サロ、そろそろ行かないと色が抜けちゃう~
ああ、たっくん。そこなら――トップレスにティーバックだから、
そこで見せてあげてもいいよ。ウフフ。」
そのときの彼女の顔。
SNSにも載せていない、
特別な他人以外には見せていない、その表情に思わず息を飲んだ。
そんな魅力的な彼女と過ごす時間はあっという間で、
気がつけば目的地の家に着いていた。
「帰りは大丈夫なのか?」
「うん。たぶん叔父さんの家に泊まるから、気にしないで。」
どう見ても下着が透けているような格好で、
少し困ったような顔をした彼女は、
豪農の大きな古びた平屋に向かって走っていく。
「おじさぁああん!みこが来たよぉお!生きてるぅう?」
「おお、みこちゃんかぁあ。大きくなったねぇ。」
――この男。何度も結婚しては離婚を繰り返していて、
愛人も複数いるという噂が絶えない。
そんな叔父が腕を広げると、
美琴は子供のように、その腕に飛び込んでいった。
破壊②




