管理人①
独特な形状とカラーリングの車に乗った理々杏は、
自分の住むアパートへ戻ってきた。
二人は車を降りると、
一階にある「鈴木一徹」と表札のかかった部屋の呼び鈴を鳴らす。
「ピンポーン……すみません。
鈴木さん。鈴木一徹さん、ご在宅ですか?」
「ガチャ……今行くぞぉ。おぉぉぉう。理々杏かぁ……理々杏やぁあ。」
人の良さそうな顔をした老人だった。
孫が何人いてもおかしくないような生命力にあふれた体格をし、
理々杏へ向ける表情も、孫を見る祖父のように柔和だった。
「すみません。身分証明書を見せてもらってもいいですか?」
「ほら、これだ。いいかな?」
「鈴木……はい。ありがとうございました。」
制服姿の男は、
差し出された書類を確認し、問題がないことを確かめていた。
「理々杏さん。本当にこの人でいいのかい?」
「はい。おじいちゃんです。」
「もう、迷子になったら駄目だよ。」
もちろん男も、彼女と鈴木の名字が違うことは気になっていた。
だが、提示されたのは正式な身分証であり、
表札の名前とも一致していたため、理々杏を鈴木へ引き渡した。
「ぎゅぅぅ……理々杏。理々杏……寂しかったぁ。」
鈴木は、少し戸惑った顔をしている理々杏を嬉しそうに抱きしめた。
「ハァ……虐待とかは無さそうですね。
じゃあ、理々杏さんも大丈夫かな?」
理々杏は、中学生と言ってもいい見た目。
色々と発育途中のせいで、小さな女の子にも見えていた。
「あっ……はい。ありがとうございました。」
(クロ? これって普通のこと?)
(ちょっとなぁ……うぅん。でも、普通の範囲だよ。)
抱きしめられること自体に慣れていない理々杏は、
どう反応していいのか分からず戸惑っていた。
「理々杏ぅ。可愛いのぉ。可愛いリリィじゃ。」
突然の再会に喜んでいるだけなのだろう。
しかし、他人の前で強く抱きしめられるのは、
理々杏にとって少し恥ずかしかった。
「肉親へ言うことでもないのですが、
お年頃の女性へのスキンシップは、嫌がられてしまいますよ。」
「むっ……理々杏?」
「あはは……ちょっと、ちょっとだけやめて欲しいかなぁ。」
理々杏にとって鈴木は、世話になっている大切な相手だった。
だからこそ嫌悪感というよりも、
どう接していいのか分からない、戸惑いの方が強い。
様々な感情が入り混じり、
結局は恥ずかしさをごまかすように、笑うしかなかった。
「じゃあ理々杏さん。都会に出てきて楽しいのは分かりますが、
おじいさんに、ご心配をかけないよう注意してくださいね。」
「はい。すみません。気を付けます。」
「理々杏?」
「あはは。ごめんね、おじいちゃん。ちょっと迷っちゃったんだ。」
鈴木の心配そうな視線に嘘は無い。
クロからも特に警告は無かったので、
理々杏は純粋に心配をかけてしまったことを申し訳なく思っていた。
「もちろん、無事に帰ってきたんですから、
おじいさんも、怒ったりしないでくださいね。」
「それでは、理々杏さん。」
「ありがとうございました。」
男は軽く会釈すると、その場を後にした。
鈴木は、理々杏が本当は自分を避けていたのではないかと、
ほんの少しだけ不安そうな表情を浮かべていた。
◇
満腹になるまで食事をご馳走になり、暖かい風呂にも入ったあと。
理々杏は、一人暮らしを続ける条件として、
二人で決めていた手伝いを始めていた。
「何があったんじゃ?」
「道に迷っちゃった。ごめんね、鈴木さん。」
「まあいい。無事だったんだからな。どうじゃ?」
「うぅ……ちょっと痛いかな。」
理々杏は、大きなクッションマットの上にうつ伏せで寝ていた。
鈴木はマッサージ師として働いており、
施術の感想を率直に聞かせてほしいと、以前から頼まれていた。
理々杏もその事情は理解していたが、
他人に身体に触れられながら感想を求められることには、
いまだ慣れることができない。
そのため施術を受けるたびに、
どう答えればいいのか分からずに、戸惑っていた。




