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クロスオーバー  作者: 連鎖
リーダー
103/118

抵抗②

 火矢が弾け、雷槍が炸裂し、火炎瓶の油が空気と地面を焼く。

 爆炎と煙が混ざり合い、巨大な火柱となってリーダーを覆い隠した。


 吹き荒れた風が炎を目指し、壊れた屋根屋をはぎ取り、

 小さな柵などなぎ倒して殺到する。


 土壁は熱で燻られ、ぱらぱらと崩れ落ち、草など一瞬で燃えた。


「やったか!?」

「いや、まだだ!」


 炎が収まり始め、炎と煙が荒れ狂う中で、ぼう、と淡い光が揺れ。


 やがてそこから、ゆっくりと黒い影が浮かび上がり、

 丸みを帯びた半球状の障壁が見えてくる。


 それは、幾何学模様が浮かんでは消え、中には錫杖を掲げた男。


 乱れていた外套も、だらしなく開いていた襟元も整えられ、

 立ち姿に表情も、寡黙な神官へと変わっていた。


 リーダーは、少しつまらなそうに笑い、錫杖を軽く振る。


 障壁が揺らめき、燃え残る炎と雷の残滓を弾き飛し、

 その顔には、何事にも動じない自信に満ちた表情が浮かぶ。


 低く息を吐き、石突で地面をトン、と軽く叩く。


 一瞬で障壁が消え去り、空いた手を魔法使いへ伸ばすと、

 揃えた指先を静かに折り曲げた。


 ――来い。


 リーダーを取り囲む男たちから、炎と雷を見た興奮が一気に引く。


「ば、馬鹿な……直撃だぞ!? 

 火ダネで強化した《火矢》に、《雷槍》まで――!」


 リーダーは何も答え無い、もう一度、ゆっくり指先を曲げていく。


 その圧に男たちの身体がすくみ。

 魔法使いは歯噛みしながら、次の一手を考えてしまう。


 リーダーは呆れたように声を出して笑うと、

 杖の先端を地面へ押し当て、複雑な紋様を描く。


 魔法使いの脳裏に、女達が着けた「首輪」の映像が浮かび上がる。


(……こいつ、何を描いてる? あの拘束とは別系統だが。まさか――)


 だが、異様な力の流れに気づけない。


 描かれていく紋様は、聖なる真円や直線ではなく、

 歪んだ円と、そこから伸びるのも、ねじくれた線。


 出来ていく紋様も、どこか“聖印″を馬鹿にしたような形。


「な、何を――!」


 魔法使いの叫びは、間に合わない。


 紋様が一斉に光を放った。


 次の瞬間、赤黒い鎖が蛇のように空中を走り、

 幾筋にも別れて伸び上がると、近くにいた男の足首へと絡みつく。


「うがっ!?」

「なっ、助けてくれ――!」


 鎖は瞬時に締まり、身体を地面へ引き倒す。

 重い音。恐怖の声。転倒。手から武器が滑り落ちる恐怖。


 魔法使いは、咄嗟に後ろへ跳び、射程から逃れた。


(さっきは《聖なる守り》……これは《聖なる鎖》……?)


 だが、その退路を読むように、別の鎖が横から伸びていく。


「《闇障壁ダーク・シェル》!」


(馬鹿な。こいつが上位の神官――? この男が……!)


 魔法使いは、足を取られる寸前で障壁を張り、

 赤黒い鎖と青く澄んだ壁がぶつかり合い、広場に閃光が何度も走る。


「クソッ、神官崩れが!」


(違う……鎖の色が違う。聖なる輝きが無い。あり得ない!

 追尾する“鎖”なんて、聖印が、いやっ。女神が許すわけない!)


 魔法使いは障壁の中で叫び。


 リーダーは鎖に絡め取られた罪人へ、ゆっくり歩み寄った。


 足と腕、口元まで鎖に縛られ、声も出せずに、もがき苦しむ罪人。

 既に諦め、見苦しく泣き叫び、助けを乞う、罪を認めた罪人。


 リーダーを取り囲んでいた全員の目に、恐怖と絶望が宿る。


「は、離せ! クソ豚が!」「やめろ、やめてくれ!」


 リーダーは懺悔を聞く顔で、

 懐から許しを与える聖印とは違う、禍々しい色の首輪を取り出した。


 あまりにも禍々しい首輪に、

 さっきまで許しを乞っていた罪人までもが剣を向ける。


 だが、鎖が一瞬にして絡みつき、

 目の周りと首以外は、赤黒い鎖が絡みついていた。


 リーダーは、そんな罪人にさえ許しを与え、

 罪状を決めた首輪が、毒々しい光を灯す。


「や、ばべめ――!」


 口が鎖で覆われているのに、許しの声を上げる罪人。


 魔法使いの視線が、自然と首輪へと吸い寄せられる。


(……首輪? 女たちと同じ系統……いや、やっぱり違う。

 もっと禍々しい……もっと濁っている。本当にコイツは神官か?)


 刹那、首輪が血の色を帯び、赤黒い蔦のようなものが伸び出した。


 罪人の身体が痙攣し、蔦が首から皮膚の下を這うように潜り込み、

 手や足首の辺りにまで不気味な蔦が浮かび上がる。


 やがて全身を侵され尽くした身体が、びくりと震え。

 身体を縛っていた鎖が解かれていく。


 ――だが、罪人は逃げない。


 焦点の合わない目を見開き、

 口を開いたまま涎を垂らし、ゆっくり立ち上がる。


 リーダーは、その姿を冷静に一瞥するだけで、次へ向かう。


「な、なにを……!」


 魔法使いが、つい声を出す。


 リーダーは、ほんの少し口角を上げ、罪人に優しい笑みを浮かべた。


 捕まった人達は必死に逃げようともがく――だが、誰も許されない。


 首輪が嵌められるたび、罪状が告げられ、刑が執行される。


 それは、次々と“考えるのをやめた物”へ変わっていく。


 近くにいた男達が罪人に変わり、慌てた魔法使いが詠唱を放った。


「《闇杭ダーク・スパイク》!」


 闇色の槍が、首輪を着けているリーダー。元は仲間へも向かう。


 だが、当たる直前、槍は錫杖で叩き落とされ、

 寒々しい打撃音だけを残して砕け散った。


「クソッ!」


(……神の守りを瞬時に、しかも魔法を叩き落とす……だと!?)


 首輪を嵌めていくリーダーの背には、元は周りを囲んでいた罪人。


「お、お前……本当に神官か……?」


 魔法使いの、悲しく、意味の無い問いかけ。


 聖印の障壁。錫杖。ローブコート。見た目なら確かに“黒衣の神官”。


 だが、そこにあるのは救済でも慈愛でもない。

 使い方が、全てが根本から歪んでいる。


 リーダーは、ちらりとも魔法使いを見ない。


 だが、少し離れた場所にいた最後の一人に救いを与え、

 ゆっくりと顔を向けた。


 丸い輪郭の中で、黒い瞳だけが鋭く光る。

 錫杖を肩に担ぎ、目を歪めて笑い、魔法使いへ近づく。


 背後に従う者が許しを乞い、息苦しい声を漏らす。


「……ごぼぉお」

「……ぶぼぉお」

「……ぐぅう」


 魔法使いの背筋に、冷たい汗が伝った。


(――まずい。あれは“隷属紋”の延長じゃない。禁忌の……)


 直感が叫ぶ。


 これまで刻んできた奴隷術式とは、次元の違う何か。


 二重に取り囲んでいた仲間達が、全て物に変わる禁忌の術。


 その恐怖を打ち消すように、

 魔法使いは声を震わせながらも、次の魔法を決めていた。



 抵抗②

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