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クロスオーバー  作者: 連鎖
リーダー
102/117

抵抗①

 時間を、少し巻き戻す。


 ミアとリアが地下牢で絶望を感じ、希望を信じていた頃――

 地上では、酒と煙、むさ苦しい笑い声が満ちていた。


 粗末なテーブルや高級毛皮の床は、安酒の樽と高級酒の瓶が転がり、

 一部は割れた破片や汚れた染みに変わっている。


 壁に掛かった高級そうな首飾りや武具が、

 安い松明の煙に燻されて輝きを消し、炎に照らされて穢れていく。


 その一角で、リーダーは「いつもと違う顔」で笑っていた。


 片手にジョッキ。残った手は膨れた腹の上。

 丸い顔には酔った紅が差し、油じみた額や手にまで汗が浮かぶ。


 隣では、ボスが豪快に笑いながら話しをしていた。


「どうしたよ、教会上がり。酒が足りねえんじゃねえか?」


 ごつい腕が大きく脂肪がのったリーダーの肩を「ドン」と叩く。


 リーダーは、その力に負けて身体が揺れてしまい、

 真剣な目のまま、ボスを困った顔で見上げる。


「もう十分だ。……これ以上飲むと新しい女を救えねえ」


 そう言うと、乾杯の度に混ぜられた酒を喉の奥へ一気に流し込む。


 だが、口角から酒が溢れ落ちてしまい、濁った息を吐いた。


「今夜は、お前さんが持ち込んだ二人で、こっちは大宴会だぜ」


 ボスは口角を吊り上げ、濁った声で笑う。


「ああ。アイツラは、扱いさえ間違えなきゃ。カネを生む。

 だが……使い潰したり、壊したりしたら、サッサと連絡をくれよ」

「ア゛ッ?」


「安くだが……買い戻して救ってやるんだよ。クッククック」


 リーダーは嬉しそうに笑い、周りの男達にも伝わっていく。


「だがよぉ、こんだけの商品を持ってきた“お得意様”だぜ。

 泊まっていけ。酒、メシ、寝床……女だって用意するぜ」


 ボスが、にやりと笑い返すと、周りの男たちが騒ぎ始める。


「そうだそうだ!」

「儲け話が他にも有るんだろ?」

「明日の朝まで飲み潰れちまえ!」


 リーダーは釣られたように肩を揺らした。


「そいつぁ、魅力的な話だがねぇ」


 飲み干したジョッキを置き、カネの詰まった荷袋を掲げ。


「こいつを持ってきゃ、また新しいのを楽しめる」


 揺らした袋から漏れ聞こえる金貨の重苦しい音。


「ありがたいことに、世の中には“オレの救い”を求める連中が、

 死ぬほど、沢山、何処にでもいるからよ。アハハハ」


 完全に悪徳神官や奴隷商の顔で、厚い唇を卑しく歪めた。


 ボスは一瞬だけ疑うように目を細め、それから大声で笑い。


「言うねえ。……確かに、こいつがありゃ、どこでも救い放題だな」


 豪快な笑いの陰で、その目には殺気が浮かぶ。


 リーダーは、それに気づかないまま背を向けて立ち上がった。


「俺はこれ位で終わりだ。……お前たちは続けて楽しんでくれ」


 椅子が軋むように鳴り、腹を支えるように腰に手を当て、

 外套の裾が遅れて重たく揺れる。


「おいおい兄弟、もう帰るってのか?」


 ボスが、残念そうな顔で呼びとめる。


「兄貴にはわりぃが、今は帰らせてもらうよ」


「そうか? 残念だな。弟一人での夜道は危ねえな。

 この辺りはオークやゴブリンも出る……あと、物騒な連中もな?」


「ありがとよ。兄貴」


 リーダーはにたりと笑い、錫杖を掲げて柄を軽く叩いた。


「だが、女神に見捨てられたとしても、コレがあるからな」


 ボスは肩をすくめてみせ、顎をしゃくると、


「そうか……だが、大事な弟だ。途中まで、連中に送らせるぞ」

 

 近くに控えていた痩せた魔法使いと数人の男が前へ出た。


 魔法使いが黄色い瞳を細め、にやりと笑う。


「ええ、もちろん。沢山稼がせて頂いたお礼に、

 私達が丁重にお送りしましょう。お前達も、準備はいいな!」


 声だけは丁寧だが、言葉の裏が何を指すかは明らかだった。


「そりゃ助かる。……俺も兄貴を稼がせる前に、死ぬわけにいかねえ。

 ついでに、このカネで″救え″と言う女神のお告げも有るしな」


「ハハハッ!」


 ボスと手下たち全員、リーダーまでもが、一斉に笑う。


 笑いの余韻が残る中、リーダーは外套の前をざっくり合わせ、

 荷袋を背負うと、酔った身体を揺らしながら歩き出した。


 男達とリーダーが固まって離れていくと、ボスが魔法使いを呼ぶ。


「ここを知ったアイツを殺せ。何時ものようにだ」

「教えたやつの事は?」


「そっちはイイ。どうせ客の誰かだ。アイツに探させる」

「わかりました。それでは何時ものように」


「頼むぞ……」「わかりました。ボス」


 その会話が終わると、

 魔法使いが小走りで近づき、リーダーを先導するように歩いていた。


 ◇


 建物を出ると、さきほどの喧騒は遠のき、

 偽装された″廃村″の広場は、明るく冷たい月光に照らされ。


 壊れた家々は外側だけ崩れたままにされ、

 その影が黒く地面へ伸び、空は澄み渡り、星がいくつも瞬いていた。


「この辺でいいでしょう」


 先頭を歩いていた魔法使いが、不意に広場の途中で足を止める。


 続いて歩いていたリーダーの背後には、建物から着いてきた男達。


 そして、建物の影からも取り囲むように次々と現れた。


 剣、棍棒、弓、短杖――武器たちがリーダーに向けられていく。


「この先は道も開けて、夜空も澄んでいます。

 ……あとは、女神にでも祈っていただければ″安全″ですよ」


 魔法使いの声が、わざとらしく朗らかに響いた。


「そりゃ助かる。少し待ってくれ……」


 リーダーは彼らに背を向けたまま荷袋を降ろし、

 肩をすくめて錫杖を構える。


 その丸い背中。黒い外套。太い首。月光が輪郭に青白い縁を描く。


「世界を守りし女神……」


 リーダーは女神に祈りを捧げ、その行為に集中し始めた。


 その瞬間だった。


「――死んどけ!」


 魔法使いの甲高い叫びが、広場を切裂くように響く。


 一拍遅れて、複数の同じ詠唱が重なる。


「《火矢フレイム・ダート》!」


 短い詠唱。近距離からの奇襲。周りから複数。


 紋章入りの短杖を掲げ、灼熱の矢が複数放たれ、

 残った男たちからも、油壺付きの矢と火炎瓶を同時に投げつけた。


 魔法が壺や瓶を貫き、液体が燃え広がり、炎が滝のように振り注ぐ。


「《雷槍サンダー・ランス》!」


 一拍遅れて、魔法使いの杖からも、白い閃光が走った。


 炎を見上げていれば遅れ、光を感じた頃には既に手遅れ、

 雷が空気を切り裂く音を聞いた頃には、全てが終わる。


 それが、背に殺到した。


 その瞬間――


 ――轟ッ!!


「我を守り……」


 炎が地面を覆い、雷が荒れ狂い、

 祈りを捧げていたリーダーを覆い隠していた。



 抵抗①

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