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第九話 敗北

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Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 剣気に耐え切れず、自己崩壊を起こしたレーベインベルグを投げ捨てる。

 刀身だけでは無く、柄尻に埋め込まれた六つの魔石にも亀裂が走り、再び輝きを放つことも無い。

 魔力を通しても反応せず、こうなってしまえば数を多くの敵を斬り殺し、焼き殺して来た神剣もただのガラクタだ。


 レーベインベルグの機能一つ、身体強化の術式が解除され、膂力、速度、耐久性が低下する。

 とは言え、半人半神の身体、龍装甲(ハールダロルヴェ)、刻印装甲が残っている。常人の目からすれば尋常ならざる身体性能だ。

 だが、この戦闘能力の低下は、魔人達に最強と是認されているオズヴェルドと戦うには致命的だ。

 だからこそ、使えなくなった道具に執着して打倒――、いや、存命出来る相手ではない。


――アーベルトさんは撤退したな。だったら、対魔人装備の部隊を再編して戻ってくる筈だ。


 それだけを頼りと希望に地を蹴り、蒼一郎が放った渾身の拳にオズヴェルドの額が裂け、鮮血が飛び散る。

 元々顔は派手に出血しやすい部位だ。寧ろ、頑強な刻印装甲で殴り付けて、この程度の傷しか負わせられず、繰り返し打撃を加えても片っ端から再生されていく。


 拳が駄目なら脚だ。様子を見るようにして棒立ちするオズヴェルドの横っ面に回し蹴りを炸裂させる。

 オズヴェルドの歯と頬骨を砕く手応えを感じたのもつかの間、刻印装甲から伸びる尾を鷲掴みにされ、何度も何度も繰り返し地面に叩きつけられ、大地を砕いていく。


 オズヴェルドの握力に耐えきれず、尾が千切れて身体が宙に舞う。

 翼を広げようとするも、目まぐるしく回転する視界の隅に、根元から引き抜かれた二枚羽が転がっているのが映った。

 掴まれた尾もそうだが、いつ翼をもぎ取られたかも分からず、反応速度、認識能力に圧倒的な隔たりが生じていることをまざまざと見せつけられた。

 蒼一郎は地面に叩き付けられ、鯨の潮吹きを彷彿とさせる形で血反吐を吐く。


「糞が……!!」


 飛沫となって降り注ぐ自らの血を浴びながら、飛び跳ねるようにして立ち上がり、その姿をかき消す。

 残像すら残さぬ超高速機動から背後に回り込み、無防備な後頭部に鋭い爪の貫手を放つ。


――さしもの魔人も脳髄を破壊されてはただでは済まない筈……!


 とは言え、完全装備の状態ですら動きを見切られていたのだ。

 今の不完全な状態で出せる超高速機動など鈍重で、当然のように肘鉄がカウンター気味に撃ち込まれる。


 咄嗟に上体を反らし、装甲片を撒き散らしながら肘打ちを避けた瞬間、オズヴェルドの腕が伸び、裏拳が蒼一郎の側頭部に炸裂する。

 拉げた頭部装甲が吹き飛び、頭部を失った胴体が甲高い音を立てて倒れ、がらんどうとなった空洞を晒す。


「頼みの刻印装甲を囮にしたか……!!」


――零距離……!! この一撃で、ブチ殺すッ!!


 身体能力の差で動きを見切られることは最初から想定していたことだった。

 当然、死角から攻めれば条件反射的にカウンターが飛んでくることもだ。


 オズヴェルドのカウンターを誘い刻印装甲から離脱。連撃の隙を突いて距離を詰める。

 大袈裟な攻撃能力や、派手な火力は不要だ。蒼一郎の右手の中指には、この男を龍殺しに押し上げた魔術兵装がはめられている。


 精霊の指輪――。


 精霊兵器という名前の響きとは裏腹に、人好きの精霊が物作りを真似て造った、精霊界にのみ存在する粗雑な武具の総称だ。

 精霊界にしか存在出来ない筈の精霊兵器を召喚する対価など在って無いようなもので、精霊界にアクセスすることさえ出来れば勝手に物質界に送り込まれる。

 実体や大きな力を持たない精霊の作る武具の数々はお世辞にも優れているとは言い難い。

 精霊兵器を召喚する意義は異世界への接続を目的とした召喚魔術の初歩中の初歩、練習のようなものだ。


 だが、物質系の召喚術式にはある共通事項が存在する。

 召喚予定位置に障害物が存在する場合、空間を捻じ曲げて位置を確保しようとする作用がある。


 空間湾曲と言えば大仰な印象を受けるが、蒼一郎自身がやることはたかが知れている。

 両の手をオズヴェルドの肉体に押し当て、ただ精霊に呼びかけるだけで良い。


――精霊さん達。出番ですよ。


 捻じ曲がる空間がオズヴェルドの四肢を抉じ開ける。

 言葉をかけられた精霊たちが善意で、そしてここぞとばかりに剣や盾を詰め込み、強靭な肉体を破壊する。

 凄まじい熱気を持つ血潮が衣服と地面を濡らし湯気を立てた。

 オズヴェルドの体躯が後方に傾き、蒼一郎が前のめりになって踏み込む。


――この程度で死ぬような可愛らしい相手では無い。


 生命体を気取るなら死ぬべき傷であっても死なないのがルカビアンだ。

 その出鱈目な生命体の中でも、一際出鱈目な存在が目の前の魔人だ。

 オズヴェルドにとって死に至らぬ傷は無傷、良くても軽症だ。

 かと言って喰らい続けて良い攻撃でも無いと踏み、オズヴェルドは回避行動に出る。

 それより先に早く蒼一郎が追うように肉迫する。

 後方に飛び退いたオズヴェルドから両腕が失われ、肩口から出鱈目な量と水圧を思わせる勢いで鮮血溢れ出す。


 勢い任せに前進だけを繰り返し、精霊兵器を対象の体内に直接召喚し、防御能力を無視して巨大な龍であろうとも破壊して殺す。

 これが、この攻撃こそが、誰にでも真似ることが出来るが、誰も真似ようとしないこの業こそがこの男を龍殺したらしめている業だ。


「まずは両腕潰させてもらう」


 奪い取った両腕を直接召喚で破裂させ、頭から血を浴びる。

 自らの返り血とオズヴェルドの血に赤黒く染まり、血の臭いを濃くして粗雑な精霊剣を構えるその姿は地獄から舞い戻った悪鬼羅刹宛らであった。

 だが、明らかに重症を負ったオズヴェルドは不敵に笑みを浮かべ、失った両腕の代わりに血飛沫をあげて胸部を晒す。


 貫けるものなら貫いてみろ、とでも言いたげな態度に蒼一郎は臍を嚙む。


「まずは? 違うだろう異界の兄弟よォッ!! 最初で最後の勝機を活かせなかった自覚くらいはあるんだよなぁッ!? その態度が虚勢では無く、本気などと間抜けなことをほざきはすまい? それともまだ手立てがあるってのかい? だったら異界の手練手管をとくと見せてもらおうか!!」


 オズヴェルドの肩がずぶりと音を立てて新たな腕を生やす。

 獣の雄叫びにも似た大喝が耳朶を叩くよりも、壁の如き圧迫感を感じさせる巨大な拳が蒼一郎の視界を埋め尽くす。

 その圧倒的なプレッシャーが実体を持ち出したような錯覚に、本能的な危機感に従って後方に飛び退く。

 前面に百にも届かんとする精霊盾を重ねて展開するが、オズヴェルドの拳の前では羽毛のようなものだ。

 出鱈目な拳圧の前に、精霊盾が砕かれるより先に吹き飛ばされていく。


 刻印装甲を使い捨て、己が身を砕かんと迫る拳の接近を認知することすら出来なくなっていた。

 ただ濃密な殺気に突き刺され、後は拳に穿たれて死ぬだけだ。負け惜しみの悪態を吐く間すらない。


――実力差が大き過ぎる……!!


 その瞬間、世界から色が失われた。


 目と鼻の先にはオズヴェルドの静止した拳があった。


 これは臨死体験の類なのだろうと察した。


 終わる。これで死ぬ。それが無性に悔しかった。


――いつもつかってくれてありがとう。


 幻聴が聞こえた。


――いつもこえをかけてくれてありがとう。


「幻聴では……無い!?」


 精霊の指輪を活性化させ小径を接続したままにしていたことで、精霊たちの声が蒼一郎に届いていたのだ。


――いつもやくにたてなくってごめんなさい。


「そんな事ありませんよ。いつも力を貸してくれてありがとうございます。何度も皆さんの作品に命を救ってもらいました。家族や仲間を守るためにもう少しだけ力を貸してください。多分、自分は今日死んでしまうかも知れませんが、ほんの僅かだとしても時間を稼がなくてはなりません」


――たよってくれてありがとう。これはとっておきだよ。


 視界に光が満ち溢れ、色を失った世界が彩りを取り戻す。

 次に起こったのは花火のように鮮烈に飛び散る魔力光、そして強風にも似た横殴りの衝撃波だった。


「相殺した……!? このオズヴェルドの攻撃を生身の人間が相殺したというのか!?」


 人間と魔人が驚愕を顔に浮かべる。


 魔力光を放つ煙霧が蒼一郎の身体を守るように纏わり付く。

 帝国建国以来、この男程、精霊兵器を重用し、多用した者は存在しない。


 それ故に精霊に愛され、新たに与えられた力は彼らからの些細な謝礼であった。


「本当に凄いとっておきだ。さ、行きますよ。精霊さん達」


 精霊とは実体を持たない精神生命体だ。彼らが本来持つ力もまた物質的なものでは無い。 

 高濃度の魔力が蒼一郎の肉となり拳となる。


「面白い!! その威力確かめてやるとしよう!! さあ打って来い!! 小生に遠慮など無用だ!!」


 驚愕していたのもほんの僅か。オズヴェルドの表情には未知の力に対する好奇心と歓喜が浮かんでいた。

 しかし、この期に及んでオズヴェルドは蒼一郎を下に見、構えを解いて両手を広げ、何処でも好きな場所を打って来いと言わんばかりに無防備を晒す。

 鳩尾に蒼一郎の拳が突き刺さり、拳打とは思えぬ爆音が空に木霊する。


「どうした。これで全力か!?」


「初めて扱う力なんでな。ただの様子見だ」


「ならば慣らし運転は終わりだな!! さあ、もう一度だ!! 全力の一撃を小生に打ち込んで見せろ!!」


「良い機会だ。この一撃で死んでおけ!!」


 腰を捩じり、右の肘先を身体の可動限界まで後方へと引き絞り、左脚で踏み込み、張り詰めた弦の様に張り詰めた拳を開放する。

 右脚の震脚と共に放たれた拳が再びオズヴェルドの鳩尾に突き刺さる。


「は……ははは、これがァ!? これが全力ゥ!? 我が一撃を受け流したのは偶然か!! まぐれか!! 期待外れも甚だしい!!」


 哄笑と共に失望を口にするが、未知の力でさえも揺らぐことの無い己の強靭さを勝ち誇り、無防備を晒している。

 人中を突く。顎を撃ち抜き、肘で鳩尾を刺す。

 左のコークスクリューを頬骨に撃ち込み、額目がけて渾身の正拳突きを―――――――頭突きで迎撃された。

 骨の芯にまで響くような鋭い衝撃を走り、歯を食いしばって苦悶の声を噛み殺す。


「はっはっはっはっは!! 男子たるもの痛みくらいは我慢せねばならんよなぁ!!」


 構えを変えるが、魔人の動体視力は隠した右腕が痙攣を起こしていることを見逃さなかった。

 癇に障ったが、嘲笑を浮かべるオズヴェルドは未だ無防備を晒している。

 脇腹に蹴りを二発、間合いを詰めて鳩尾に膝蹴りを炸裂させた辺りで右腕の痙攣が治り、両の拳で連撃を叩き込み、身体と力の流れに乗って肘、膝、拳、爪先を繰り出す。


「どうしたよ、兄弟!! こんなものかぁ!?」


「舐めるなッ!!」


 跳躍し、宙を舞う蒼一郎の身体が回転し、刃のように鋭い蹴りがオズヴェルドの顔面を捉えた。

 流石の魔人も此処までやれば身体をふらつかせるらしく、よろめいて二歩、三歩と後退する。


 後退するオズヴェルドを追って地を駆け、再び飛び回し蹴りを繰り出そうと跳躍――。

 肉弾戦で無様を晒したことが余程据えかねたらしく、遂に魔人が動きを見せた。蒼一郎の蹴りを掻い潜り、その鳩尾に拳を叩き付ける。

 拳で殴られたと言うよりも高速で打ち出された巨大な物体と衝突したかのような出鱈目な衝戟に吹き飛ばされた。

 風を感じる間も無く、結界に叩き付けられ、地面に崩れ落ちるも片膝を着いて即座に身体を起こす。

 奇跡的にも内蔵は破裂していないらしく、口腔の奥から込み上げてくる物は何も無かった。


 数百メートルを吹き飛ばされたにも関わらず、既にオズヴェルドが三メートル先のところまで接近しており、幸運に喜んでる暇も無く、崩れたままでは殺されるという危機感だけが蒼一郎の身体に構えを取らせていた。


「たったの一撃で戦意が衰える程小心者ではァ無いよなァ兄弟よォ。攻守交替と行こうかァ!!」


 右、左とテンポよく放たれた大振りの打撃が蒼一郎の頭上を掠める。

 紙一重で交わした拳打が巻き起こす衝撃が蒼一郎を再び結界に叩き付ける。


 ここぞとばかりに一際大きく振り被られた鋼鉄の拳が迫る。

 いくら精霊たちに守られているとは言え、オズヴェルドの打撃と結界に挟まれては流石に身体が破裂する。


「ッ!!」


 必死の形相でオズヴェルドの鋼拳を受け流し、懐に飛び込み肘鉄のカウンターをもう何度目になるか分からない鳩尾に突き刺した。

 

「ハッ」


 オズヴェルドが小さく嗤う。危機感を感じた時には魔人の指が蒼一郎の首筋に食い込み、片手で軽々と頭上に掲げられる。

 締め付けられる首の骨が軋む音を鳴らし、首の肉を潰していく。


――調子に乗ってんじゃ、ねぇ!!


 首を掴む腕の内側目がけて肘を振り落とし、持ち上がった腕を降ろさせ拘束を解き、身体を捩じってオズヴェルドの顎に肘鉄を振り抜き、むせ返りながら距離を取る。

 蛇行するような足捌きで迫るオズヴェルドが死角から拳を振り抜き、蒼一郎を地面に叩き付けた。


 立ち上がり、右、左、右に振り抜かれた打撃を潜り抜け、相変わらず防御を欠片も考えていない無防備な脇腹に拳を打ち込む。

 蒼一郎の目はオズヴェルドの目にのみ意識を注いでいる。

 強烈な筈のカウンターもこの魔人の前では蚊が刺したようなものらしく微塵にも通用していない。


 ――来る!!


 身を屈めて左右から飛翔する拳打を潜り抜け、顔面に打撃を三発叩き込む。


「しゃらくさいッ!!」


 嵐のような拳打を後退しながら捌くが、オズヴェルドの踏み込みは蒼一郎の比では無く、容易く距離を詰められ、炸裂した拳はあまりにも重く、防御ごと撃ち砕かれ、左腕が拳が、肩が、鎖骨が軋む。

 痛みよりも暫くの間、左腕が使い物にならないであろう不便さが蒼一郎を苛立たせ、歯噛みさせる。


 拳を振り上げ疾走するオズヴェルドの顔面にカウンターの回し蹴りをお見舞いするが、それすら見越していたのか、それとも単純に通じていないのか顔面に蹴りを喰らったまま、更なる打撃が繰り出される。

 両腕を交差して急所を守るが、ガードごと貫かれる。

 血塊を吐き出し、地面に叩き付けられるよりも先に、左腕の骨が完全に粉砕する音が響く。これで完全に使い物にならなくなった。


 ――魔人最強は伊達では無いと言うことか。パワーと耐久性が出鱈目過ぎる。言葉通り、桁違いだ。


「腕が一本完全に使えなくなったか。魔術抜きでは自己再生も出来んとは脆弱で不便な身体だなァ、兄弟よォ!! 身体を砕かれ、何度も地面を転がされ、攻撃は通用しない。だが、その面構え、まだまだ戦いを楽しみ足りないってところだなぁ?」


 蒼一郎は無言であったが、右腕一本で構えを取り、双眸には冷徹な光が灯る。態度は何処までも雄弁であった。


 疾走から振り落とされる打撃を小さく跳んで躱し、オズヴェルドの背後に回り込む。

 たたらを踏んで立ち位置を変える。そのあまりにも小さく鋭い動きはオズヴェルドがほんの一瞬だけ姿を見失う程であった。


 蒼一郎の姿を視界に納めるなり、弾丸の如く拳を打ち出す。それを横から拳を打ち込み、軌道を変えさせる。

 突進と共に放たれる右ストレートを身体全体を使って受け流し、背後に回り込んで後頭部に拳打を打ち込む。

 流転するように身体を転身させて攻撃の全てを避け、無防備になった急所に確実に撃ち込み、時には攻撃を誘っては避け、背後に回り込んで一撃を蓄積させていく。


「ぬっ……!?」


 オズヴェルドの身体を中心に見立て、蒼一郎は円を描くようにして巧みに立ち位置を変え、踊るが如く攻撃と回避を同時に成し遂げる。

 腹部に、顔面に、蒼一郎の打撃が直撃し、オズヴェルドの攻撃は掠りさえしない。

 薙ぎ払うような手刀を大きく状態を逸らせ、バク転しつつオズヴェルドの顎を蹴りで打ち据える。


――今のは手応えがあった……!!


 頭部を仰け反らせたまま後方へとよろめくオズヴェルドの姿に蒼一郎は確実な手応えを感じていた。


――追撃……これでケリを付ける!!


 自らの右腕を刀に見立て、精霊たちに力を結集するように呼び掛ける。

 精霊界の魔力を物質化するまで圧縮して補強した手刀で一刀両断に分断せんと振り落とす。


「悪いなァ、異界の兄弟よォ……」


「……ッ!?」


 振り落とされた手刀の手首を掴まれ、尋常では無い握力に肉が破裂し、骨が軋み、砕ける音を響かせる。

 そして、そのまま引き寄せると魔人は、それまでの喧しい声量とは打って変わって、鈴が鳴るような静かな声で言った。


「飽いた」


 手首を掴む腕を引き寄せ、崩れた体勢で防御も回避も出来ない身体に拳が撃ち込まれ、蒼一郎の身体が宙を舞い、そのまま地に落ちた。


「光るもの、目を見張るものが無いとは言わんが急ごしらえの力ではな。持ち得る全ての手札を洗練させた頃合いを見計らって出直すとしよう。今の貴様では遊び相手にしかならんが、万全であればこのオズヴェルドを殺せるかも知れんぞ?」


「舐め、やがって……!!」


 まともに制御出来なくなった身体に鞭を打って無理矢理にでも立ち上がらせる。魔人が口の端を吊り上げた。


「良い気迫だ。だが、小生が言ったことを忘れたか!? 小生は言った筈だぞ!! 飽いたとなァ!!」


 眼前に巨大な拳が迫り、蒼一郎の視界がブラックアウトした。

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