79 軟禁 あるいは自由
空夜は簡素なベッドから身を起こして、かすれる声で応じた。
「あの世なら、お前と二人っきりってことはない」
「言ってくれるな」
秋比古は空夜の肩を小突くと、
「少なくとも、天国じゃないけどな」
肩をすくめた。
窓の外には、昼の太陽が昇っていた。しかし、竹林に囲まれているためにさほどの明るさを感じない。雪を予感させる雲がひとつちぎれて、ずいぶんな速さで流れていった。風が強い。
「ここは……どこ?」
急激に覚醒してゆく頭で外を見据えて、空夜は問うた。
雲の影が竹林を横切っては過ぎていき、まるで空白のスクリーンのように白黒に点滅する窓枠の外の世界。
ベッドの隣に並んでいた椅子のひとつを引き寄せて、秋比古は静かに腰を下ろした。
「すでに中央規格区域の外側さ。昨日の夜別れた後、お前、崖から落ちただろ。森の中で子供みたいに寝てるのを俺が見つけたってわけ」
「お前が……?」
「そう。昨日の夜、ラファティと一緒にいた男……そいつがここまでお前を連れてきて、医者を手配した。何が目的かはよく分からないが、少なくとも、偽造通行許可証を手配したことで逮捕しにきたと言うわけではないらしい。すぐさま喧嘩に発展するような人物ではなさそうだ。名前は……難しい発音で忘れた。この部屋で誰かが俺たちに会いたがっているとかって言ってた」
「カッセル次官?」
「分からない。何も言わなかったから。そいつの言葉も発音が少しおかしくて……いや、俺の言葉がおかしいのか、どちらにせよあまり上手く聞き取れなかったんだ。軍人って感じはしなかったけど。とにかく、倒れているお前を連れて逃げるのは難しそうだったから、ついてくるしかなかったんだ」
「ごめん……」
空夜は呟いた。
ひどくふがいない気持ちになるような悪い夢を見たような気がして、その時の気持ちを追体験しているようだった。




