80 好奇心と開かれた部屋と
軍事施設の類だろうかと、空夜はもう一度部屋を見回した。
しかし、ここは人の匂いのする部屋だ。自分の知っている、ただ人間を整理しておくためだけに造られた施設の雰囲気とは違っている。
「それにしたって、どうなんだ、この待遇は?」
わざとおどけた口調で秋比古が言った。
「大したもの知らずだ、鍵のない部屋に俺たちを二人っきりにしておくってのは。見張りもない、犬もいない、警報装置の類もない。顔を洗いたいと言えば洗面所までフリーパス。天下の散花部隊の生き残りを自宅にご招待って趣向だ」
皮肉めいているのは隠せない。
空夜は顔をこすりながら言った。
「クレッフェとは何の関係もないのかも」
「この期に及んで、そんな偶然は信じられない。そうだろ?」
自分で言ってはみたものの、空夜ですら眉のしわを深くして同意した。
「でも、結局のところ、好奇心にかられた僕たちは、招待した人間の顔を確かめるまでここを離れないよ。万が一、軍関係者でも、監禁目的は達してる」
「好奇心を捨てるって手もある」
「本当に何の関係もない可能性だってある。包囲した人間と助けてくれた人間は別人かも知れない」
「元々が何もないんだ。手ぶらだってどこでも行けるさ」
「その時は、桐珂のことも忘れずに頼むよ」
「……そうか。桐珂さんがいた。……彼女が押さえられたんだろうか?」
「リンの手配だから、ないとは思うけど……。あれはあれで、優秀な情報屋だから」
自分たちが何か奇妙なことに巻き込まれるのは、もはや逃げても逃げても追いかけてくる影につきまとわれるようなものだ、と空夜は思った。人との接触を避けて軍の情報に目を光らせてはいても、いったん巨大で姿なきものにつきまとわれれば、自分の存在がいかに小さいものであるか確認することになるだけだ。「黒い髪の人間」に保障された未来が存在する余地は、もうこの星にはないのかも知れない。




