78 穏やかな寝室 目覚め
目が覚めた時、何か苦しい夢を見たような胸の痛みが一瞬よぎった。のどが渇いて頬がこわばった。
思い出そうと再び目を閉じたけれど、それより早く耳慣れた声がかかった。
「起きたか?」
はっとして振り返ると、自分の傍らに秋比古が座っていた。
悠長な顔はいつも通り。しかし、確か山の中を二人で逃げていたような覚えがある。それにしては彼の格好は清潔で、口調も穏やかだった。
空夜は小さくて柔らかなベッドに横になっていた。繕いも黄ばみもないシーツにくるまれて、すき間風のない暖かい部屋に寝かされていた。
混乱。
自分はどこにいるのか。
「おい、寝てるのか?」
「起きてる」
さえぎるように言って眉をしかめた。
状況を把握しようとして首を巡らせてみても、混乱はさらに深まるばかりだった。
豪奢ではないが、小さくて整った部屋。監禁されているのかといぶかしんだが、戸口に鍵はついていない。外にはきちんと手の入った庭が広がっていて、通じる窓の鍵も内側から開けられるようになっていた。
「あの世だと思うか?」
眉間のしわをおもしろく感じたのだろう。秋比古が笑みを含んだ口調で尋ねた。
「いや……」
否定してはみても、さてどこかと考えると「あの世」とでも言いたくなる。穏やかさの匂いに慣れていない空夜には現実離れしてみえる空気と、孤独ではない静寂。




