78 沈黙の朝 気持ち悪いほどの生と落ちる死
沈黙の朝が来た。
冷たい淵に落ちた体を抱き締めながら、空夜は憑かれたように歩き続けていた。
夜明けの気配を感じて肩越しに振り返る。
孤独な送り火の煙は、すでに朝もやに隠されて見えなかった。
息をひそめた山の静寂。
白く吐き続けられる自分の呼吸が耳に障る。
待ち望んでいた日の光の下にさらされて初めて、空夜は自分がもはや独りであることを知った。
背にした山の向こうにも、手にしたささやかな重みにも、今や深い絶望の吐息が澱のようにどんよりと染み込んでいて、その中で自分一人が生き、息をしている奇妙さ。
他は全て今まで通りの世界に残されていて、自分だけが違う世界に放り出された夢幻のような気がしていた。
呼吸しているのが気持ちが悪い。
鼓動しているのが気持ちが悪い。
指先が動き、肩に痛みを感じ、凍った風に身をさすられて震えが起こることが気持ちが悪い。
力無い少女の額に寄せた頬に知らず知らずに涙が流れることすら、唾棄するほどに気持ちが悪かった。
その夜、正規軍は一人として駆けつけてはこなかった。
宝子の体を湧水で穿たれた穴に横たえた頃、空夜は自分たちが軍の意志によって抹消されたのだということを悟った。




