74 炎の中 生と死の境目
短い呼気と共に、空夜はバネのように弾けて飛びかかった。首筋の後ろ、頸椎だけを目がけてナイフを突き出す。
飛び出してきた黒い影に驚いて、相手は振り返ろうと身をよじった。
その肩を右手で押さえつけて、左手を力一杯押し出した。
声を上げる間もなくのけぞって倒れこんできた肢体が右肩にぶつかって、空夜は喉の奥で呻き声を洩らした。右半身が麻痺して、崩れそうになる足を気力だけで立て直す。
闇の向こうで、炎に照らされたもう一つの顔がこちらを振り向くのを確認する。高揚しているための気のせいだろうか、驚いた表情までも見える。遅れて銃口がかざされた。
空夜は倒れかけている男の銃を彼の腕ごとすくい上げると、向き合った銃口に向けて引き金を引いた。
耳慣れた乾いた音が、森の中に連続して弾けた。
不十分な体勢で放ったので、反動で自分ものけぞって倒れる。
腐葉土は柔らかに体を受け止めたが、それでも激しい痛みに襲われて肩を抱えてうずくまった。呻き声だけは口の中で飲み込んではみたものの、涙がにじむのだけは抑えられなかった。しばらくは顔を上げることすらできない。
冷たい空気で呼吸を整えたところで、やっと辺りを警戒するだけの余裕ができた。息をひそめて耳を澄ませたが、二人目の男の気配はすでになかった。
手にしている銃を見た。外で流通することはめったにない、軍で支給されているものと同じ銃だった。
「宝子……」
唯一の願いを口にして、空夜は立ち上がった。
重過ぎる銃は、ただ持っているだけで気力を萎えさせる。
彼女の声のした方に見当をつけて、空夜は足を踏み出した。




