70 凶事ののろし
偵察に出たのは、呆れるほどに小さな偶然だった。その程度のものに命を救われるなんて、自分がずいぶんと小さな存在に感じたものだ。
そして、帰ってきた時にはすでに手遅れだったのだ。
初めは小さなのろしかと思った。自分の部隊がこんな森の中で上げるわけがないから、もちろん何も知らない民間人のものだ。雪も近い冬の夜にこんなところに入り込んだのならば土地勘のない人間だろう。
これほどに誰かに接近されていることに気付かなかったのは、偵察である自分のミスだ。誰が上げているのか確認しなければ偵察の意味がないと、空夜は焦って足を速めた。
だが、近付くにつれ様子が変わっていることに気付いた。それは、明らかに部隊が潜んでいる崖の方から上がっていたのだ。
気でも違ったのかと小さく舌打ちする。前線ではないはずのこの場所、ザゼルで何かが起こっているということは、隊長のゼファの慎重さを持ってすれば十分理解しているはずだ。緊急の必要があっても、煙を上げて部隊全体を危険にさらすなんて。
ただでさえ、自分たちは包囲する何者かの気配に圧されてこの森に誘いこまれた感さえある。手々に放たれた偵察者はそのためのものだった。
空夜は音をたてないように慎重に進んだ。煙に誘われて、良くない連中が集まってきている恐れもあったからだ。
それにしても、と空夜は思った。足音も声も欠けらも関知しないままに、自分が民間人を見逃してしまったなんてことがあるのだろうか。偵察と銘打って放たれながら、そこまで無能な自分に焦りを感じた。




