67 命 背負う影
「分かった」
空夜はナイフを握り締めた。コートのポケットに入っているもの以外は諦めることに決めて、その場に残して立ち上がる。
「うまくいくだろうな?」
「できなけりゃ、次に会うのはあの世かな」
飄々とそう言って、秋比古はにんまりと笑って見せた。
「ま、そんなに悲観することもないだろう。桐珂さんは先に行ってる。俺たちは俺たちの命のことだけ考えればいいんだから。……じゃ、うまくやれよ」
惜しむ間も与えないままで、彼は身を低くして走り去った。足音をひそめたり闇に紛れて隠れたりするのは、クレッフェであった彼にとっては造作もないことだった。
空夜は凍えた手でしっかりと抜き身のナイフを握り締めた。戦争が終わって二年経ったとは言え、トラブルの多い娼館で警備をしているだけあって、緊迫した状況に体はきちんとついていく。彼も秋比古とは反対の方角へ走り始めた。
「食べ物の袋が残っている。この辺りにいるぞ」
やがて、彼の背中は森の中で喧騒が広がるのを感じた。




