66 禍鳥の影 虫の沈黙
「……秋比古」
鳥は暗いところでは目が利かないが、人が近付けば夜でも羽ばたく。虫は人が通れば声をひそめる。森の中に人がいる。多分、囲まれているのだ、この森は。
先導している秋比古も、足を止める。
どこかで狂ったような鳥の声がした。大きく響くのは、冬が近付いて大気が澄んでいるからだ。警戒しているかのように低く飛び、少なくなった木の葉を叩く。
「囲まれてるな」
「あぁ……」
「……二手に分かれよう」
秋比古は、自分の持っていた抜き身のナイフを空夜に持たせた。
「無理だよ。手がかじかんでナイフなんて扱えない」
「走れればいい。俺が火を炊いて攪乱するから、お前はしばらくここに潜んでいろ。森にいる人間がすべて出払ってから、西へ抜けるんだ」
「……囮になるつもりか?」
「そんな殊勝なことするか、阿呆」
彼は呆れたように空夜を見た。ずいぶん闇に目が慣れてきたので、彼の顔もよく見える。本当にそんな殊勝なことをするような人間ではないことに気付いて、空夜は少しだけ笑った。
「そうだな」
「俺には体力がある。お前、昨日までの仕事でほとんど寝てないだろう? 大丈夫、俺ならなんとかなるさ」
それが妥当なことだと思ったので、空夜は逆らわずにうなづいた。確かに今の自分では、一緒に逃げたとしても足手まといになるだけでどうにもならない。ただ手を動かすだけでもかじかんで難儀しているのだから。




