63 息を潜めて
あまりの寒さに、焚き火をしたいと言いたかったが、秋比古がそれを嫌うのは分かっていた。
せっかく闇に目が慣れたのに、ここで火を使ってしまったのであれば、またもとの通りだ。それに、これから来るはずの偽造移動許可証商人に、こちらの顔を見られたくない。火をたいて、こちらの位置を知らしめるのも避けたかった。
手も足も凍えて、これから一晩も歩くことを考えるとうんざりする。持ち物がほとんどないことだけが強みと言ってよかった。
「遅い」
不満そうに秋比古が呟いた。
「もう夜中だ」
しかし、彼の口調はしっかりしていて、唇が寒さに固まりかけている空夜に比べれば、がぜん体力を残していた。
ラファティという偽造移動許可証商人と約束したのは、宵の口。
うっそうと茂った森の入口では、いかに放射冷却を防ぐからといっても、やはり季節特有の刺すような冷たさからは逃れられない。ましてや真夜中となれば、気温はどんどん下がっていく一方。
先刻から、秋比古はラファティが治安部隊に連行されてしまったのではないかと気に病んでいる。もし連行されていれば、ラファティの口から秋比古の顔が治安部隊に流れるかも知れない。あるいは今夜ここに二人が待っていることについても。
加えて、ラファティと先に合流するゼファがどうなったかということも心配だった。
「もうどれだけ待っている?」
「二時間」
空夜は震える唇で答えた。
「ここは諦めて、一旦北の町へ行って、そこでもう一度移動許可証を手配したほうがいいんじゃないか? かなり遠回りにはなるけれど」
「ここより西には、国境しかないからな」




