61 クーデターの予兆
「正確な記録はどこにもないんだよ。あの森で全員が死んだはずのクレッフェの人間ですら、こうして今も生き残りがいる。もし、その『鍵』が中央政府の恐れている『武器』だったら……? 『鍵』はそれ自体は無害だ。しかし、散花部隊の人間と結びつくとそれは危険度を増す。我々は『鍵』にクレッフェを自由に操る力を与えたのだから。そして、この世界最後の楽園に住む自由人が、それを手にすることになったら……」
「戦争で疲弊したドニとクレア・エバをユーリ・エバが圧倒することが可能になる。……しかし、カッセル次官はクレッフェを処分してはいません。ユーリ・エバで『鍵』が使用されれば大事になると分かっていながら、クレッフェを生かしたままにすることがあるでしょうか?」
「見つかっているのならば『鍵』にも使いようがある。自分を疎外したドニ軍への復讐だって考えられる。……じつをいえば、君が特別暗号文のメールを私に届けて来た時に執務室にいた男、彼は軍情報部の人間だ。クーデターについては軍も独自にその徴候をつかんでいるらしい。彼らは内部調査を進めている。ほんの少しのクレッフェの生き残りでは戦争を起こすことは不可能かも知れんが、ゲリラ戦のプロとして教育してあるのだから、クーデターくらいなら可能だろう」
「クーデター……」
サベンコは呟いた。
戦争が終わって二年。まだこの国の人間はその興奮から冷めてはいないようだ。軍縮協定が結ばれたこのもっとも冷静さが必要とされる時に、冷めやらない熱気は過ちを犯す引きがねとなる。軍もそれを警戒しているようだった。




