55 顔色の悪い二人
伝書を持ったまま、サベンコは一時間近くも待たされた。その間に空は明らみ、壮大な朝日の活劇がその幕を開けようとしていた。
不定期な勤務が続き、ここ数日で彼は目の下のクマを濃く刻んでいた。顔色は悪くなる一方だ。これで倒れでもしたら休養がとれるのだが、そうもならないのは生まれてこのかた感謝しつづけてきた身体の頑丈さのおかげだ。
彼が通されたのはほんの小さな応接室だったが、そこは庭に面していて草木が朝の刷毛に起こされる様がよく見えた。心地よい冬の朝の到来は、しかし、彼にとってそれほどの感激を与えるものとはならなかった。
中央から戻ってきたばかりだというのに、休養もままならない。公式な任務と私的な用事が噛み合わず、秘書官として帰ってはきても、今度はタナカの用人としての自分の仕事も済まさなくてはならない。そして当のタナカは自分を待たせている。
苛立ちが心を這うようなことはなかったが、それでも疲れからくる虚脱感のようなものは防げなかった。この暖かくて柔らかくて心地よい椅子で眠ってしまいそうになる。
朝の光が窓を白く染めあげる頃、ようやくタナカが部屋に入ってきた。サベンコは姿勢を正した。
「すまない。かなり待たせたね」
「構いません」
そうは言ったが、彼の疲労を見てとったのだろう、タナカは使用人に頼んで、彼のためにすぐに朝食を用意させるように言った。
かく言う田中の顔も黒く疲れて見える。サベンコは自らの疲労を棚に上げて、彼のことを心配した。
「顔色が悪いようですが。大丈夫ですか?」
タナカは笑った。そうして自らも心地の良いソファに身を沈めた。
「君もだ、サベンコ。それは君にこそ聞きたいよ。……いやなに、私の方は急に思いついて昨晩から調べ物をしていてね。気がついたら、夜が明けていたわけさ」




