48 神様がいない
廊下は明るい。そこには常に電灯が点っている。太陽のエネルギーがどこよりも強いこの星で、大気はなくとも、光は半永久的に保証された公平な権利だった。
美しく着飾ることを強制されて履かされたヒールが、かたかたと貧相な音を立てる。背の低い和知には大き過ぎる服も、かさばって歩きにくい。
窓があるところにさしかかると、和知はその先を見つめて足を止めた。
窓の外に広がるのは、楽園の風景。緑の芝と背の低い木々、淡い香りの花とたわわに実った果実。まるで時間のように永遠に流れ続ける澄んだ水が、快い音をたてて耳をくすぐる。ちょうどドニの春を思わせる、ほどよく湿り気を含んだ甘い空気。それになびく木の葉の間には、複数光源が造りあげた幻想的な光の波紋が、一枚の崇高な宗教画のように横たわっている。
ここはまるで、原初のドニ。
和知はこの星に大気などないことを知っている。この空が、ドニのものよりはるかに狭いことを知っている。
それなのに、なぜ、人はこんなものを造りあげたのだろう。これが楽園なのだと思い込んでしまっているのだろう。なぜ、見たこともないこの風景が一番安らぐと感じるのだろう。
望郷、センチメンタリズム。
それはどこから来ているのだろう。思い出もない、人が簡易に造りあげたこの楽園からも、それは生まれているのだろうか。
この星のこの楽園が見せかけのものだとしたら、ドニのあの風景も見せかけのものに過ぎない。人が手を入れて造りあげたか、神様が手を入れて造りあげたか、世界の違いはその程度でしかない。人間が自然だと思っているこの宇宙も、神様の造りあげた見せかけの世界だったら……。




