47 唾棄すべき理想を語るつまらないモノたち
和知は暗いままの部屋を出た。そこではまだ、ゲーリングと呼ばれる侯爵の名を振りかざした古い考え方の男が、大きないびきをかいて眠っていた。これからの余生をユーリ・エバで送ろうとしている、楽園の無邪気な支配者のひとりだ。
昨晩から彼の理想論をひたすら聞かされ、和知はそれをにこにことうなづきながら聞き入っていた。皆が自然のままでいられるような楽園にしたいと語る自称ナチュラリストだったが、和知の存在が不自然であることには気付かなかったようだ。
和知が素のままでいたら、理想論を語ってそれを誇っている人間の話を微笑んで聞くようなことはなかっただろう。万が一、和知が少しでも彼の論述にくだらないという顔でも見せたら、彼は不機嫌になって、何のためらいもなく黒い髪の人間である和知を殺す。それが自然であるかということには関わりなく。
いや、あるいは彼にとってはそれが自然なことなのかも知れない。奴隷が存在して、それの命を彼が握っていること。狩りのために獣を殺すこと。感情の制御もせずに解放すること。すべては『自然』、彼にとって。
それがすべて。
頭の中の事実がすべて。
世界はそれでできている。
だから世界の形はひとりひとり違う。
別に彼だけが責められたものではない。和知の中にも、少なからず片手では数えられないくらいの世界が存在するのだから。
そして、ここも。ユーリ・エバ。
この楽園も、ドニやクレア・エバとは違った形で存在している。楽園である形を保てるだけの、違和のある世界。




