43 魔女の噂
「あるかも知れないさ。戦争が終わるってことは軍人は必要なくなるってことだ。特に軍制時代の情報を握っている人間、僕たちのような人間は中央にとっては油断ならない存在になる。せっかく平和がおとずれたって時に、過去の暗い部分を暴かれたら、困るからな。ましてや相手は黒い髪の子供で、カッセル参謀は中央から成り上がり者だとただでさえ嫌われている。僕だって逃げたいくらいだ」
「それだけじゃない。俺達が先週作戦で取った司令部の通信に、おかしなものが含まれていた」
「なんて?」
「『ザゼルで魔女を造りあげた』」
秋比古があまりに真剣な顔つきでそう言ったので、空夜は逆におかしくなった。この真剣な話の最中に、現実主義者の彼の口から魔女という言葉が出たことに、違和を感じたのだ。
秋比古は空夜の感情がいっきに冗談を受けつける時の雰囲気に変わったのを見てとって、憤然とした様子だった。
空夜はそれに気付いて彼にわびた。
「ごめん。……つまり、暗号文なんだな? 何か、『魔女』と呼ばれるものを開発したという」
薄暗闇の中、彼は憮然として空夜を見かえしていた。しばらく諦めたように沈黙していたが、やがて小さくうなづいた。
「そうだと思う。そのせいで、カッセルはここ数カ月の功績も無駄になるんじゃないかと焦っているし、俺達は二週間前から足止めを食らっている。そして、この休暇だ。何かあると思っても、おかしくはないだろう?」
「何もない戦場なんてどこにもない」
「一般論はいい」




