39 過去 副隊長の彼
彼らはまだ子供だ。どれほど戦場に立ったところで、十代であることの無邪気さは隠せない。半数以上が黒い髪の人間、この世でいわれない差別を受けている人間たち。そうして、空夜自身もそうだった。
リノリウムが音を立てる。足音を立てて歩く。
最初の角を曲がったところで、知った顔に会った。
「こんな時間に起床とは、良い身分だな」
「秋比古……」
彼はニヤニヤと、いつもと変わらない笑みを浮かべていた。彼が戦場でどういう司令塔になるのか、そこのところを空夜はよくは知らなかった。第一部隊の副隊長というからにはそれなりの仕事をするようではあるが、空夜の前に現れる時はいつだって飄々と笑っている。
西向きの廊下は先刻まで居た部屋に比べて暗い。そして冷たい空気が流れていた。
「なんだ、第一部隊も居たのか」
空夜が声をかけると、彼はうなづいてみせた。
「俺達は明日までな。宝子ちゃんからおまえも居るって聞いたんで、ここで待ってたってわけ」
「そりゃ、どうも」
大量破壊兵器を使用している人間と違って、我が身を戦場に置いている兵士は精神異常をきたす確率が断然高い。モニタを通してひとの死を見ることと、目の前でひとが死ぬこととはまったく違う意味を持つ。兵器の方が圧倒的に多くの人間を殺すのに、罪の意識は歴然として前線の兵士の方が重い。
そのため、数週間に一度は必ず兵士は前線を退く。だいたい最前線で耐えられるのは九日が限界だとされており、クレッフェもその周期より遥かに長い期間絶えられるにも関わらず、やはり数週間ごとに休暇をもらう。子供であればなおさらだ。
しかし、この訓練場に戻されることはまれで、それが第一第二の主力部隊となれば会うのはほとんど三か月ぶりだった。




