38 過去 戦争の休日
「お兄ちゃん、起きて。朝だよ。寝坊だよ」
彼女は笑いながらそう言う。末っ子だという彼女は、それ特有の面倒見が良いところがある。そのため、部隊で一番幼くても皆からかわいがられ、頼られていた。こうして惰眠をむさぼっている空夜を起こしに来たのも、彼女のエンターテナーな部分であるのだろう。
空夜は笑んで起き上がる。用意された洗いざらしの白いシャツを、まるで息を吸いこむように心地よく着込む。それが自然な動作でできることの有り難さ。
時間も何もかも、とくとくと自然に流れていく。
彼女は脱いだばかりの空夜のシャツを抱えて、部屋の外に出てゆく。
そうして不意に、空夜はここが訓練施設であったことを思い出す。
彼はベッドから立ち上がると、狭い部屋を見回した。いくつもの簡素なベッドが縦横に並び、彩度の低い壁とシーツが支配した最低限度の空間。めくれ上がったシーツが人の臭気を残したまま時を止めていた。
ここは訓練施設。クレッフェの試験部隊が集まる場所。戦場から僕たちが帰ることのできる唯一の場所。
部屋には十人足らずの人間がいたはずだったが、今は空也ひとり。本当に寝坊してしまったのだろう。久々の休日なのだから。
戦争の休日。
その不釣り合いなニュアンスがおかしくて、空夜は少しだけ鼻で笑うと、それから遅い朝食をとりに食堂へ向かうことにした。多分豪勢な食べ物は先に行った連中に食べつくされていることだろう。自分は、そうだ、久しぶりにこんがりと焼いたパンが食べたい。
廊下はしかし数人の人間が歩き回っていて、それぞれの発する声はまるで歌のような滑らかなメロディーに聞こえる。皆一様に、今日始まったばかりの休日を楽しそうにこなしている。




