37 過去 甘い朝
光が射しこむのを感じた。まぶたに、明るく。
それはここ最近感じたことのないほど心地よくて、空也は抱きしめたシーツの感触を確かめながらゆっくりと目を開けた。
白い光だった。見たことのないほど、白い。明るくて、白くて、強くて、静かな。これが太陽というものの力だったのかと、空夜は浅い吐息を吐きながら思った。
「お兄ちゃん」
舌ったらずな声が、彼の耳を震わせる。現実に返ることを拒否させないだけの優しい声。
彼女は自分のことを兄と呼ぶ。決して血なんてつながってはいない、ただ戦場に連れてこられて数か月間一緒に居ただけなのに。戦友と言うにはあまりにも幼い。
「お兄ちゃん、起きて」
ここは戦場ではない。ベッドもある。食事もきちんと器に乗っている。なによりこうして寝坊をしても命を取られる心配がない。呼びかける彼女の声にも、緊迫した色はない。
空夜は大きく朝の温い空気を吸うと、寝返りを打って声の主を目で追った。
ベッドの横であきれ顔で立ちつくしているのは、背の小さな女の子だった。歳は空夜よりもまだ小さい。白くて無個性な服をまとって、白い光の中で仕方がないとでも言うように笑っている。
「……宝子」
ゆるくて緩慢な空気の中で彼女を見あげて、あぁ、自分はこの子が好きだったんだと思い出す。その思いはまだ幼くて、捕らえどころがなくて、感情に分類するだけの名前もない。
彼女に応えて、空夜もにっこりと笑ってみせる。




