34 不穏の噂
桐珂はキーボードに触れた。
「ユーリ・エバにも、最近不穏な空気があるようなの」
「クレッフェの正規部隊に似た仕事をしている人間が現れたって、リンに聞いた」
「そう。外地に出向していた高官たちも首都市に集められて、その対応に当たっているみたい。もっとも、ユーリ・エバは個人を尊重する土地だから、自治政府と言っても裁判調停所程度の働きしかないの。だから、対応と言ってもほとんど何も決まらないと同じだわ。せいぜい、すべての住民へ警告を出すくらい」
「独自に発展して中立を保っているユーリ・エバに情報の運び屋を雇うだけの大切な情報でもあるのか?」
「私には分からないわ。でも……、」
「ただいまぁっ」
まったく空夜が脱力するようなタイミングで、秋比古が帰ってきた。
まだ未明だというのに、大声で声をかけて部屋に入り込んでくる。床もぎしぎし言ってかれの行動を責めたてているが、彼はそんなことはまったく意に解してはいないようだった。
彼は部屋に入ってくるなり、
「お、空夜。帰ってたのか」
桐珂はその声色をおかしそうに聞いている。
空夜は自分の家のようにこの部屋に入ってきたその態度にあきれ返ってしまって、ただじろりと秋比古を見返しただけだった。その足で台所に入っていき、沸かしたお湯でお茶の準備をした。




