31 老人のため息の軌跡
彼らは表に現れることを恐れている。彼らが、国家という自分よりも大きな世の中から監視され、世の中から抹殺されることを知っているためである。
一方、政府のほうはクレア・エバとの国交が正常化するよりも前に彼らを消し去りたいと思っている。クレア・エバにクレッフェの試験部隊の人間が入って、声高にその戦争の歴史を語られることを恐れているのだ。
軍縮条約が結ばれて国交正常化に向かおうというこの時期が、政府のクレッフェ撲滅に拍車をかけているに違いない。クレッフェにとって、今この時期はきわめて生きにくい世界になっている。
これでもまだ隠れている人間が本当にいるのか?
彼らを見つけて、自分はどうする?
ザゼルの悲劇を歴史上に明らかにするのか?
それでこの国をおとしめる必要性があるのか?
それにしてはここは中央からあまりにも遠い。
数々の疑問符が浮かんで、タナカは微熱が出そうだった。
ここ一週間ほどの慌ただしい中央の動きと、それにつれて増える地方の雑用に疲れていた。
心なしか普段に増して足が痛むような気がして、彼は電話口で薬を頼んだ。これが睡眠薬でもあれば、仕事を放棄して心地よい眠りに浸るんだが。
彼はため息をついて窓の外を見やった。
遠く宇宙センターから昇っていく定期便の水蒸気が、尾を引くように空を仕切って天空へと去って行った。