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戦争を語る仔  作者:
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29/80

29 サベンコからのメール

 サベンコからのメールが入った時、タナカは自室の椅子から腰を持ち上げようと苦労していたところだった。彼は足が悪い。それ故に一日に何度もこの場所から移動するわけではない。

 ちょうどそのタイミングに入ってきたメールを、彼はいまいましげに無視しようとして、それがサベンコからのものであることに気付くと諦めたように息をついた。仕方なく苦労して立ち上がりかけた腰を椅子に預ける。

 彼は大きく息ををつくと、開きっぱなしにしてあるメール画面を引きだして、そこからつい今しがたに来たメールを開いた。

 文面は彼とサベンコしか解読ソフトを持ってはいない暗号で書かれたもので、一読すれば意味のない日常会話の羅列にしか見えなかった。タナカは解読ソフトを呼び出して、メール文を解凍した。

 長い中間報告だった。

 カッセル次官が表面上おとなしくしていること、クレア・エバの自治政府の軍縮条約に対する反応、ドニ政府の最新の動き。最後に、クレッフェの試験部隊の生き残りについての手がかりがほとんど得られないことが、少々言い訳めいた文体で書かれていた。

 サベンコは中央軍を中心に情報収集していた。彼はもともと中央政府の書記官の中でもえり抜きのエリートの中のひとりだった。それだけに、中央のほうにつてが多いのだろう。中央の動向については、この左遷地では彼以上に知り得る人間はいないであろう。

 ドニ中央政府は、先週末にクレア・エバと軍縮条約を結んだ。事実上の敗戦側であるクレア・エバが大きく譲歩した形でそれは結ばれていた。こちら側の条件が飲まれたことに対して、中央は浮き足立っているという。「世界の命運を左右するだけの権力を手にしたという大いなる勘違いをしている連中」、サベンコは自国の政府を批判的にそう言い切っていた。

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