23 よくある話
「聞かない」
リンは断言した。
「そんな噂、聞いたことないよ。だいたい、クレッフェの試験部隊の人間は自分から身分を明かすことなんてないのに、そいつらの噂なんて聞くわけないじゃん」
彼女は豪快にビールの大びんを一本開けておいて、それを冷たいグラスに注いだ。空夜には一滴も飲ませないつもりのようで、彼の目の前には乾ききったグラスがおかれているだけだ。
「私だって、あんたと秋比古と、あとはこのあいだ行方不明になった女の子しか知らないよ。亜日那っていう子、知ってる?」
暗いバーカウンターの隅で空夜は首を傾げた。
「知らない」
「散花の第六部隊だった子なんだけど」
「僕は第二部隊だったから。その子、軍に捕まったのか?」
「それは分からない。自殺したとかしないとか。よくある話よ」
よくある話。
そう言いきってしまわれると、確かによくある話だと思わせる。
戦争が終わって物事がすべて混乱の熱気から冷めてしまうと、あとに残るのは焦燥感だけだ。それは実際に空夜もこの二年間で克服したことのひとつだった。




