救世主現る?
もう、僕にはどうすることも出来ません。
己の無力さに涙が出そうでした。
現実を見たくないという衝動から、目を瞑ってしまいました。
激しい轟音が鳴り響き、そして静寂が訪れます。
ゆっくりと目を開くと、そこにはまだサーシャ様たちが生きていました。
そして、その前に、立ちはだかる様にして見慣れない少女が一人立っていました。
「ふぅ。大丈夫でしたか、皆さん。」
「あ、あの貴女は?」
「あっ、申し遅れました。私、ジャクリンと申します。貴女がサーシャさんですね。あっ、シエルさんも居ますね。お久しぶりです。」
どうやらシエルさんの、お知り合いの魔法使いの子みたいです。
サーシャ様たちを助けてくれたのでしょうか。
しかし、あの攻撃を防ぐなんて凄い魔法使いです。
「わあ、ジャクリンなの!?久しぶり、というか強くなったのね。」
「お蔭様で。とんでもない冒険をたくさん経験してきましたので。それより、皆様の治療を致しますね。」
ジャクリンさんは、僕を魔法でサーシャ様たちの元へと運び、魔法障壁を解除して、治療を始めました。
「あ、あの治療してもらっといてなんですけど、まだ敵が残っていますので、先にそちらを片付けてもらえませんか。」
するとジャクリンさんは、口元に笑みを浮かべて、
「それは無理です。私では、あの魔物は倒せません。」と、言い切りました。
「貴様ら、俺を無視するとはいい度胸だ。少し驚いたが、次は全力でゆくぞ!」
これは、まずい状況です。
なにせジャクリンさんは、魔物障壁を解除していますからね。
もろに喰らえば皆、死んでしまいます。
「そこの魔物さん、こちらばかりに気をとられていると、あっという間に死んじゃいますわよ。ねえ――レジェス様。」
バゴン!
凄まじい音が鳴り響きました。
どうやらデーモンズボールの蓋が、砕け散った音のようです。
そして、中から人影が飛び出してきました。
「き、貴様はあの時の!」
その影はアシュベル・グレーに近づくと、いきなり殴りつけました。
「あれは、レジェス様の十八番、低級魔法のパンチャーです。」
ジャクリンさんは、何故か解説を始めました。
「ぐおっ!おのれ、同じ人間に二度も負けぬ!」
アシュベル・グレーの台詞から察するに、どうやら奴は一度、レジェスに負けているのでしょう。
しかし、あれがあの時の子共――レジェスなのでしょうか。
僕は、彼の戦う姿に目が釘付けになりました。
剣を抜いたレジェスは、恐ろしいほどのスピードで剣を振りました。
「あれは!レジェス様が最近覚えた、必殺の剣、めった斬り!」
そして、相変わらず続くジャクリンさんの解説。
「く、くそ!やめろ、俺はもう死にたく――。」
レジェスの振った剣でアシュベル・グレーは、みじん切りにされていきました。
「そ、そんな馬鹿な――ギャアア。」
アシュベル・グレーは断末魔の悲鳴を残し、跡形もなく消え去りました。
「『よし、片付いたな。』と、申しております。」
「貴方がレジェスね。パークさんから聞いているわ。」
「『いかにも、私がレジェスだ』と、申しております。」
「どうでもいいが、どうして君が彼の代弁を?」
サーシャ様とローラスは知らないでしょうが、彼は口がきけないのです。
しかし、ジャクリンさんは凄いですね。どうしてレジェスの言葉を聞き取っているのでしょうか?
「レジェス様は、訳あって話せないのです。なので代わりに私が読心術でレジェス様の口の動きから、その言葉を読みとっているのです。」
なるほど。そんなことが可能なのですね。
僕も覚えてみたいですね。
それよりも、このジャクリンさんの治療は恐ろしく効きますね。
さっきまで全く動けなかったのに一瞬で動くことができるようになりました。
まだ、全身痛みますけどね。
「ジャクリンも坊やも、本当に久しぶりね。」
しかし、シエルさんは本当に顔が広いですね。
「『げっ、シエル姉さん。』と、申しております。」
「何よ、そのリアクション。あのこと、ばらすわよ。」
「『ご、ごめんなさい』と、申しております。」
しかし、やはり彼は恐ろしく強くなっていました。
まあ、そうなってもらわないと困りますけどね。
「そういえば、私の挨拶がまだでしたね。私はグリフォンブルーの魔法使い、ジャクリンです。今はレジェス様のお父上、プライト国王様の命により、レジェス様の身の回りのお世話をさせて頂いております。」
そうか!彼は一国の王子様でしたね。
これは、早急に手を打っておかねばなりません。
「や、やあ。久しいね、元気そうで何よりだよ。随分と強くなったみたいだね。これも僕の教えが良かったからだろうね。」
「『……どちら様でしたか?』と、申しております。」
やはり覚えていませんでしたか。
それも仕方ありません。
今、思い出させてやりましょう。
「ピートだよ。ほら、君の師匠だった、ピート。」
「『――ピート!あのピートか!おのれ!』と、申しております。」
この後、僕は彼に一発殴られてしまうことになりました。
なんでも昔つけた、彼の名前に対して恨みをかっていたみたいです。
確かに、ちょっと悪ふざけが過ぎましたね。
「あなた、さっきあの穴から出てきたわよね?デーモンズホールを潜ったの?」
そう言われてみれば確かにサーシャ様の言う通りです。
穴を塞いでいた木製の蓋は木端微塵になっています。
「『そうだ。私たちはフルガイアへ行って――ん?君の、その目は!そうか、君がサーシャか。』と、申しております。」
「どうして私の名を?」
「『私たちはディミトリに会ってきた。君の父上にな。』と、申しております。」




